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ニュースレター(機関紙)

JOMF派遣医師便り
NL09090101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国、医療事情

◆シンガポール

シンガポール日本人会クリニック
日暮 浩実

◇新型インフルエンザ一問一答

今回は当院の臨床現場でよく受けるご質問を元に記事を書いてみました。他国では状況が違うと思いますが、何らかの参考となれば幸いです。
新型インフルエンザをめぐる情勢は刻々変わっていきますので、常に新しい情報に御注意下さい。(この記事は9月16日に書かれています。)

死亡率は?
9月15日の時点で、日本での死亡例は14例でした。この時までの累計患者数は推計で50万人以上でしたから、死亡率は0.003%以下ということになります。これは季節性インフルエンザの推定死亡率の0.1%程度より低いことになります。しかし、世界的には死亡率は0.1~0.5%程度であると推計されています。
 
なぜ日本と世界で死亡率がそんなにちがうの?
日本感染症学会の見解は、「日本では発症後2-3日以内という早期に受診がなされ、ほとんどの例で抗インフルエンザ薬による治療が行われているから」というものです。

シンガポールでは?
7月7日までは患者数が確認されており、この時までの累計は約1200名でした。その後はWHO(世界保健機構)の見解に則り、重症例のみの患者数把握となりました。死亡例は7月18日に第1例がでて、9月7日の時点で18例です。多くは基礎疾患がある方です。

現在の患者数は正確にはわかりませんが、保健省は急性呼吸器疾患の患者を発表しており、その中には新型インフルエンザが含まれています。これによれば、6月末から患者数が増え始め、そのピークは7月末頃にあり、このときは一週間あたりの患者数が昨年に比べ約70%増加しました。6月末から9月初めまでの患者累計は昨年が約12万人、今年は約17万人となっています。このうちのかなりの人数が新型インフルエンザである可能性があります。

重症化する人や死亡例にはどういう人が多いの?
重症化する可能性は誰にでもあります。ただ、一般にはリスクが高い人として、基礎疾患のある人(慢性呼吸器疾患、心臓病、腎臓病、肝臓病、神経疾患、糖尿病などの代謝異常、その他免疫力が低下している人)、5歳以下の小児、妊婦、高齢者などが挙げられます。   妊婦に関してのデータとしては、アメリカからの報告があります。7月半ばまでに確認されたアメリカでの死者266人のうち、6%の15人が妊婦でした。妊婦はアメリカの人口の1%程度に過ぎませんからリスクが高いと考えて良いでしょう。

しかしながら、WHOによると、世界の重症例の約40%は健康な子どもや50歳以下の成人です。また、過去のパンデミックの記録を見ますと、普段は強健であると考えられる20-40代ぐらいまでの方の肺炎や死亡例が多くなるという特徴があります。現在の新型インフルエンザでも既にこうした傾向が見られてきています。
持病の有無にかかわらず、すべての人が重症化に注意する必要があります。

タミフルは効くの?
現時点では、有効です。ただ、耐性(タミフルが効かない)株が日本や香港、デンマークなどで報告されています。日本の例にはタミフルの予防内服中に変異が起きた例が複数含まれています。耐性株は治療でも1~数%の確率で出現することがわかっており、周囲に感染することなく消滅するとされていましたが、9月10日、タミフル耐性のインフルエンザの人から人への感染例がアメリカから報告されました。事例が起きたのは7月で予防内服をしていた例とのことです。幸い、その後、このウイルスが蔓延したという報告はありませんが、アメリカCDC(感染症センター)は安易な予防内服はしないようにと呼びかけています。

新薬
現在、日本などで新たなインフルエンザ薬が3種類開発中です。このうち2剤は来年早々にも使用できるようになる可能性があります。

インフルエンザになったら抗インフルエンザ薬は飲まなくてはいけないの?
9月8日のアメリカCDCの発表では、重症化するリスクの高い人や重症化する兆候を示した人以外は、抗インフルエンザ薬を服用する必要はないとしています。
しかしながら、9月15日の日本感染症学会の「提言」によれば、抗インフルエンザ薬は重症化を抑えることが期待できるため、服用(それも発症早期から)すべきとしています。
治療に関しては主治医とご相談下さい。

妊婦へのタミフルの投与は?
8月25日の日本産婦人科学会の見解では、疑いが濃いと判断されたら検査結果を待たずにタミフルを服用すべきとしています。また、濃厚な接触があった場合は予防内服も推奨しています。アメリカからの報告で、胎児への催奇形性は認められておらず、しかも妊婦は重症化する危険が高いということからこうした判断となったと考えられます。もちろん、薬の開発の段階では妊婦での実験はできませんから、妊婦への安全性が100%完璧とは言えませんが、服用をするほうが服用しないよりもより安全であると考えられます。服用の際は医師とよく話し合っていただければと思います。

流行はいつ終わるの?
残念ながら、分かりません。
ただはっきりしているのは、大多数の人が免疫を持つまでは流行は続くということです。

じゃあ、人が免疫を持つにはどうすればいいの?
実際に病気にかかるか、ワクチンを接種するしかありません。予防内服した場合にはウイルスは増殖を抑えられるため、その時点では発症はしにくくなりますが(発症予防効果70-80%)、免疫が成立することは期待できませんので、新たな感染を防ぐためにはワクチン接種が必要になります。

ワクチンはいつ打てるの?
現時点ではまだわかっていません。数に限りがあるため、シンガポールでも日本のように優先順位が決められつつあります。

ワクチンで得られる免疫と実際にかかって得られる免疫には違いがあるの?
あります。ワクチンの場合にはIgG抗体のみが作られますが、実際にかかるとさらに粘膜分泌型のIgA抗体も作られます。このIgA抗体は変異したウイルスに対する免疫力(交叉反応性)がIgG抗体よりも実験的には数倍高いことがわかっています。ですので、実際にかかったほうがより強い免疫が得られることになります。実際、この原理を利用した経鼻ワクチンが開発されつつあります。

ただ、臨床の現場では、A型インフルエンザに短い間隔(1ヶ月から数ヶ月)でかかっている方も散見されますので、実際の効果は慎重に見極める必要があります。

今、インフルエンザにかかれば、むしろ安全なの?
一見そのような気もしますが、実は安全とは言えません。まだ少数でありますが、健常者でも既に死者が出ています。これは今後、増加する可能性があります。また、お子さんなどでは、脳症の危険もあります。(脳症はインフルエンザに初感染の場合に多いため、今回のようにほとんどの人が免疫を持っていない新型の場合はお子さん以外でも危険があります。)ちなみに季節性のインフルエンザでは、日本では毎年、数10人から100人以上のお子さんが、脳症で亡くなられています(死亡率は約10%以下、後遺症は約25%)。脳症の進展は急激で発熱後数時間から1日ぐらいで発症することもあります。これでは治療薬も間に合いません。
更に、感染が急に広まると困ったことが起きてきます。これは次の項目でご説明します。

感染が広まるとどうなるの?
患者数が増えれば、重症化する人も増えます。患者数が少なければ治療が間に合いますが、多くの方が、例えば、肺炎を起こし入院が必要になった場合など、医療資源の限界から治療が間に合わなくなってしまいます。治療が間に合わなければ多くの方が亡くなることになります。日本でもこのことが危惧されていますが、医療資源を増やすことは容易ではありません。例えば人工呼吸器は1台数百万円もします。大量にこんな機器を購入できるお金は誰も持っていませんし、設置する場所もありません。

また、感染が広まるほど、ウイルスが変異する確率を上げることになります。変異の程度が大きくなってくると、一度インフルエンザにかかっても、変異したウイルスに再び感染してしまう可能性が出てきます。せっかく打ったワクチンも効果が低くなります。
そして、変異により薬剤耐性のウイルスが出てくる可能性も高まります。今、私達が、比較的平静でいられるのは、有効な薬があるからではないでしょうか?季節性インフルエンザの多くが、実験上は(臨床的にはまだ効いているという報告も多いですが)タミフル耐性となっていることは既にご存知の方も多いでしょう。薬はいずれ効かなくなることは避けられませんが、有効な薬がある期間をなるべく延ばすためにも、できるだけ感染を広めない努力をすることが大切だと思います。
 
じゃあどうすればいいの?
普段から感染を受けない工夫(手洗い、うがいなど)をして、かかったと思ったら感染を広げない努力をしましょう。マスクをして病院へ行き、検査(註1)、治療を受けましょう。重症化しなければ入院する必要はなく、服薬し自宅療養で十分です。病気が快方に向かい、熱が下がっても2日間は外出を控えてください。解熱後もしばらくは感染力があるからです。特に小児の場合は長めで発症後10日程度ウイルスを排泄する場合もありますので注意が必要です。

皆で協力して、感染の広まりの速度を医療資源が対応できる範囲に抑えられれば心配はうんと減ります。
人のウイルスの最大の宿主は人です。ウイルスは私たちの体を通して生きながらえているもので、人のウイルスを広めているのはほかならぬ私たち人なのです。 
私たち、一人ひとりの小さな努力が大きな実を結ぶと信じます。

註1:発症後24時間ぐらいが、検査の感度が最も高いとされています。個人的な臨床現場の実感としては発熱後6-8時間ぐらいたてば感度が高くなっていると感じています。

 

◆マニラ

マニラ日本人会診療所
小栗 千枝

◇フィリピンの結核事情(2)

(7月号に掲載の「フィリピンの結核事情(1)」の続きです。どうぞ(1)とあわせてお読み下さい。)

結核は人から人に伝染していくので、罹患率を減らすためには、出来るだけ多くの子供に出生直後のBCG接種を徹底させること、そして、感染の可能性のある人が見つかれば、抗結核薬で確実に治療し、患者本人の危険性を減らすとともに、他人への感染源を減らしていくことしかない。
しかし、貧困による栄養不良、情報不足、狭い場所に密集して暮らす環境、簡単に医者にかかることが出来ない、などの理由で、多くの感染者が未治療のまま存在し、また他人への感染源ともなっているのが現状である。

診断
フィリピン保健省には、National Tuberculosis Program (NTP)と呼ばれる国家結核対策プログラムがあり、その指針に沿って結核対策を実施している。活動の中心は保健省であるが、WHOの結核対策本部が保健省内部にあり、密に連携を図って実施している。
実際の患者発見、治療を行っているのは市町村にある保健所と保健所支所である。(地方分権化) そのため、地方によって結核対策の実施方法にばらつきがある。(診断レベルにも差がある可能性もある)

2週間以上続く咳があるとき(ほかに、寝汗、体重減少、食欲低下、原因不明の発熱・悪寒、胸痛、倦怠感などがあるとき)、結核を疑う根拠となる。

結核の診断の基本は、喀痰中の結核菌を顕微鏡で証明することであり、3回の喀痰塗抹検査が勧められる。現在でも、活動性結核の最も有効な診断方法で、簡単で、安価で、結果がすぐに分かり、また感染性の強さともよく相関する、そして僻地でも顕微鏡があれば検査が可能である。

3回の喀痰塗抹検査の結果で、
1)2回もしくは3回塗抹陽性→塗抹陽性結核患者として保健所に登録
2)1回のみ塗抹陽性→さらに3回の塗抹検査を行い、1回でも塗抹陽性なら塗抹陽性結核患者として保健所に登録。全て陰性なら胸部レントゲンを撮り、活動性結核に矛盾しない所見なら塗抹陽性結核患者として保健所に登録。活動性結核がなければ経過観察もしくはさらに詳しい検査。
3)全て塗抹陰性→医師に紹介され2、3週間の対症療法。もし症状が続くなら胸部レントゲンを撮り、所見がある場合、結核診断委員会(TBDC)(※)に紹介、活動性結核に矛盾しない所見なら塗抹陰性結核患者として保健所に登録。活動性結核がなければ経過観察もしくはさらに詳しい検査。

※ 結核診断委員会(TBDC)
1998年のWHOの報告によると、結核症例(塗抹陰性であるが胸部レントゲンで所見のあるものを含む)の中で、35%のみが塗抹陽性で、30~50%は非活動性結核だった。また、1997年のWHOの統計では、胸部レントゲンで結核と診断された症例のうち25%のみが活動性肺結核を示唆する所見であり、36%は疑わしい影のみ、39%は正常もしくは他の疾患によるものだった。
過剰診断により多くの患者に不必要な抗結核薬が投与され、また結核と診断されることによる患者の精神的な負担や薬の副作用、さらに言えば、限りある資源、とくに抗結核薬の無駄遣いともなっている。
NTPは、塗抹陰性結核患者の過剰診断や過剰治療を減らすため、また塗抹陰性であるが活動性である結核患者を確実に見つけ適切に抗結核薬で治療するため、州や市単位でTBDCを設置した。
呼吸器科医、放射線科医、看護師などがチームとなって、最低でも月に2回の会議が行われ、診断困難な症例に対して、臨床所見と胸部レントゲンで治療方針を決めている。

クォンティフェロン
新しく開発された結核菌感染の診断法で、結核菌に特異的な抗原を全血に添加し、血液中の感作リンパ球から放出されるインターフェロンγを測定する。
ツベルクリン反応と違い、過去のBCG接種の影響を受けない。ただし、感染が最近のものでも過去のものでも同じように陽性になるので、症状や画像所見などと組み合わせて総合的に判断する必要があるのは、ツベルクリン反応と同じである。
日本では約5,500円の検査であるが、診察または画像診断などにより結核感染が強く疑われる患者に対しては、2006年1月より保険適用となった。
フィリピンでは現時点で検査は出来ないし、また、たとえ出来たとしても、結核が疑われる人のスクリーニングとして使うには、費用の面で現実的ではない。

治療
治療は化学療法が基本で、最低でも6ヶ月間(最初の2ヶ月間は4種類、その後の4ヶ月間は2種類または3種類)の抗結核薬で治療される。
WHOは、治療脱落と多剤耐性結核を防ぐため、直接監視下療法(DOTS)を推奨している。つまり、治療パートナーの前で、毎日、最低6ヶ月間の抗結核薬の服用が必要である。パートナーには主に保健所のスタッフや地域の保健ボランティアがなり、場所は保健所や支所・ボランティアの家・患者の家などである。
治療の効果は、約2ヶ月毎の喀痰塗抹検査で判定される。

結核の検査および治療(喀痰検査、胸部レントゲン、抗結核薬など)は、フィリピンでは「全て無料」である。フィリピン保健省は予算が少ないが、WHOが三大感染症であるエイズ・結核・マラリアを撲滅するために2002年に設立した世界基金(GFATM)から資金が下りるので、エイズ・結核・マラリアについては、無料でプログラムが実施されている。(もちろんフィリピンだけではなく、世界各国で行われている)
しかし、聞いた話では、それを知らずに(もしくは故意に?)有料で行なっている現地病院や医師もあるようである。

BCG
小児の結核性髄膜炎や粟粒結核の発病防止に有効であるが、成人の肺結核に対する発病予防効果は50%程度とされる。フィリピンでは、0~1歳児に対して義務で実施していて無料である。現在の接種率は90%程度、と言われている。

日本との状況の違いから来る問題
マニラのインターナショナル・スクールでは、毎年健診が義務付けられていて、結核蔓延国(日本もその中に入っている)からきた生徒には、ツベルクリン反応と、もしツベルクリン反応陽性だった場合には胸部レントゲンが要求される。日本の子供たちは、大抵、生後BCG接種をしているので、ツベルクリン反応陽性になる。要するに、毎年のようにレントゲンを撮らないといけない、ということになる。

また近年、退職後を海外で暮らそうという人たちがここフィリピンでも増えているが、ビザ申請時の健診で、胸部レントゲンの異常で許可されないことも多い。日本では高齢者は結核既往感染率が比較的高く、日本では何年も変化がなく非活動性病変とされていても、ここでは3回の痰の検査が義務付けられ、痰が出せなければ3ヶ月ごとの胸部レントゲンが要求され、面倒になって諦める人もいる。

2007年の統計では、日本では25,000人の新たな結核患者が発生し、2,200人が結核で死亡している。(1日に6人が結核で死亡) これはフィリピンと比べると10分の1以下であるが、国としても一生懸命結核罹患率を減らそうとしているので、国外からの感染源もなるべくシャットアウトしたいということなのかもしれない。
____________________________
この文章を書くにあたり、結核予防会国際部の鈴木真帆さんに大変お世話になりました。この場を借りて深謝します。真帆さん、いつもありがとう。


フィリピンの結核事情(1)はこちらからお読み下さい。
http://www.jomf.or.jp/include/disp_text.php?type=n100&file=2009070101



◆ジャカルタ

ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室
山本 正志  

◇インドネシア:デング熱の話

近況
インドネシアでは8月22日からラマダン(断食月)に入りました。インドネシアではイスラム教徒(ムスリム)が全人口の90%以上(約2億人)を占めています。
彼らはレバラン(断食明け大祭、今年は9月22日の予定)まで、日の出から日没まで飲食を断ち、空腹に耐えながら、1日最低5回の祈りをささげ自己修行をします。
ムスリムは断食(プアサ)時間中、食事の他、水、タバコ、異性間交渉を行ってはいけません。

ラマダンの期間におけるムスリムの1日をインターネットで調べてみると、日の出前に食事→祈りの後、再度寝て出社→仕事中は断食→帰宅後、その日の断食明け→最初は胃を驚かせないように水やお菓子、甘い紅茶をとる→その後本格的な食事、となるようです。

ラマダン期間中はどうしても注意力が散漫になるため交通事故や仕事上のミスが多発するようなので注意が必要です。

デング熱の話
インドネシアではデング熱が数年おきに爆発的な流行を繰り返しています。2006年の大流行ではインドネシア国内で約11万5千人が感染、そのうち約1,200人が死亡しており決してあなどれない疾患です。ただ死亡例のほとんどは現地の貧困層、高齢者や乳児で適切な治療が受けられないことが原因のようです。
インドネシアでは毎年雨期にあたる1月から3月にデング熱の流行があります。ただし、近年では雨期ほどではありませんが、乾期にも患者が発生している状況です。JJC医療相談室では毎月2~3人デング熱患者が見受けられます。

受診理由は38度から40度の発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛というようにインフルエンザの症状とよく似ています。両者の鑑別はそれほど難しくはなく、デング熱の場合、受診時採血で白血球が顕著に減少している例が多く、経時的にみると、白血球に続き血小板が減少してきます。

デングウイルスのIgM、IgG血清抗体価を調べる方法もありますが、抗体価が血中に反映されるまでに5日から7日かかり、検査結果が出るまでに回復してしまうことがあるため急ぎの診断には間に合いません。死亡率も1%以下で特別な治療を行わなくても軽症で済む場合がほとんどです。ただし痛みと発熱に対しアスピリンは出血傾向の増悪やライ(Reye)症候群発症の可能性があるので使ってはいけません。デング熱に罹った場合、死亡率の高い(10%から50%)デング出血熱に移行するかどうか事前に予測がつかないため、JJC医療相談室では罹患者に安静を徹底し2日毎(状態によっては毎日)採血を行い、白血球、血小板数が改善するまで通院をお願いしています。また、数値や体調、帯同家族の有無などから判断して入院を勧めることもあります。

デング熱には予防接種も予防薬もありません。蚊に刺されないようにすることが唯一の予防法です。また体力が低下すると免疫力が落ちますので規則正しい生活と睡眠、栄養をとることが大切です。



◆大連

大連市中心医院日本人医療相談室
星野 眞二郎

◇胃腸検査(上部・下部内視鏡)体験記

8月中旬に夏季休暇のために一時帰国させて頂いた際、医師としてではなく、“患者さんの1人”として、私自ら胃腸検査(上部・下部内視鏡)を体験する機会がございましたので御報告させて頂きたいと思います。

ふたつの動機
胃腸の検査を受けてみようと思った動機は二つありました。まず、1年位前から“夜間の胸焼け”が出現するようになっていたからです。2種類の胃薬(胃酸を抑える制酸剤と胃粘膜を保護し修復する薬)を服用することにより、症状はその都度軽快していました。-いわゆる“逆流性食道炎”の典型的な症状です。そして、“胸焼け”があったことに加え、今春に受けた上部消化管造影検査(いわゆるバリウム検査)にて“食道粘膜不整(疑い)”という所見を指摘されていたからです。

“逆流性食道炎”の薬物治療以外の有効な方法として、“ダイエット”が知られています。腹部肥満(特に内臓脂肪)があると腹腔内圧が通常より高まる結果、胸焼けなどの逆流性食道炎の症状が出やすくなるのです。一方“ダイエット”により腹部肥満が改善すると腹腔内圧が低下して症状が軽快するというわけです。実際、5kgの減量に成功した私の胸焼けも以前と比べるとかなり改善していたため、精密検査の必要性が有ったにも関わらず放置していたのです(“ダイエット”体験記につきましては後日、あらためて御報告させて頂きたいと思います)。

メニュー追加された大腸ファイバー検診
この件に関して、数年前から親交のある先輩の消化器専門医(内視鏡ひと筋でテレビ番組にもしばしば出演する有名な先生です)に相談したところ、やはり早めに検査をした方が良いだろう-ということで、今回の帰国日程に合わせて検査予約を入れて頂きました。

検査の予約に当たり、何回かのメール交信の中で、『私の同級生(医師)が先日大腸癌で亡くなりましてね。気が付いた時にはすでに肝臓に転移しており、3ヵ月後には帰らぬ人になりました。もし星野先生がいままで一度も大腸ファイバーを受けたことが無ければ是非、(胃カメラだけでなく)大腸ファイバーも受けた方が良いですよ』という内容のメールを頂き、私は迷わず大腸ファイバーの予約もお願いしました。

膨れ上がった不安感
そのメールを頂いてからというもの、正直、とても不安な日々を過ごしました。毎年1回定期的に健康診断を受けていましたが、主に気にしていたのは、“体重・血圧・脂肪肝・脂質系・血糖値・尿酸値”など、いわゆる“代謝関連”の検査項目ばかりです。“癌の検査”としては、数年前から毎年バリウム検査(上部消化管造影)、腹部超音波検査は行っていましたが、胃カメラはやったことが有りませんでした。『食道癌だったらどうしよう』などと考え始めると心配で仕方がありませんでした。

また、腸の検査はいつも“2日間の便潜血検査”のみで済ませていましたが、“予想以上のペースで体重が減っていること(本来は喜ぶべきことなのですが)”、“どちらかというといつも軟便気味であること”なども考え、『もしかしたら大腸癌かもしれない』とも考えるようになりました。

食事をしてよい食材、いけない食材
事前に“検査3日前の昼から食べてはいけない食べ物”と“食べても構わない食べ物”のリストを頂きました。“食べてはいけないもの”として、“野菜・豆類・玄米・海藻類・蕎麦・しらたき”などが挙げられていました。一般的には健康に良いと考えられている食べ物ばかりです。逆に“食べても構わないもの”として“肉類・魚類(ただし骨の無いもの)・卵・乳製品・白米・うどんなどが挙げられていました。

最近は食事の量だけでなく、内容にまで気を付けていた私にとって、それは貴重な3日間でした。というのも普段控えめにしていた、ステーキ、ハンバーグ、寿司(大トロ、ウニ、イクラ)など、おいしいけれど体に悪い食べものを思う存分食べることが出来たからです。

いっそのこと!
『最悪、“癌の末期”だとしたら、いっそのこと好きなものを思う存分食べてみたい!』と本気で考えました。実際、日本料理屋の店先で“本日、熊本産のおいしい天然ウナギ入荷しました”、“生ビール8月末までの限定サービス”という看板を見つけた次の瞬間、無意識のうちにお店に入っていました(ちなみに、ウナギは“食べてはいけないもの”のリストには入っていませんでした-生ビールは少量であれば大丈夫と“自己判断”)。

検査前に食事制限が必要だったのは、腸内に食物残渣が残っていると検査(大腸ファイバー)の際の観察が十分に行えなくなるので、(通常体に良いとされているはずの)“繊維質の多い食べ物”を避けるということからのようです。

募る不安の中で
検査前の日本での数日間、すっかり足が遠のいていた実家近くの美術館や植物園に行って“乱れた心”を静め、“困った時の神社参り・先祖のお墓参り”までしました。植物園ではセミ(蝉)の鳴き声を聞きながら、ひと夏限りの短いセミの人生(虫生?)を 自分の人生とダブらせてみたりもしました。これが、まさしく検査前の-あるいは病名を告知された時の“患者さんの気持ち”なのかもしれません。

また、急に“過去の自分捜し”をしたくなり、久しぶりに東京の原宿に行きました。私は原宿の竹下通りの“裏”にある幼稚園(東郷幼稚園)に通っていたのです。当時、竹下通りは、現在と逆で“東郷幼稚園の単なる裏通り”に過ぎず、現在とは比較にならないほど閑散としていました(竹下通りで鬼ごっこをした記憶がかすかに残っています)。

原宿駅の外壁には“大腸癌撲滅キャンペーン”と称して、複数の著名人の巨大なポスターが複数枚貼られていました(いずれも大腸癌に罹った方ばかりです)。そのポスターに書かれた“自分だけは大丈夫と-あなたは思っていませんか?”というメッセージが妙に胸に突き刺さります。

患者さんの気持ちに触れた気が
医師という仕事に携わってから10数年になりますので、職業上、いろいろな方の最期を看取って来ましたが、ヒトの死は事故死にしろ、突然の心筋梗塞やクモ膜下出血による急死にしろ、数ヶ月単位で死に至る癌の末期にしろ、いずれの場合もヒトの死は極めて悲惨なものです。今回、自分が病気(正確には病気の疑いですが・・)になって初めて、“患者さんの本当の気持ちを”を真の意味で理解出来たような気が致します。

いざ検査!
検査2日前の夜に飲み薬の下剤を1錠服用し、検査前日の夜は午後9時までに食事を済ませ、その後、液体の下剤を2L服用して就寝しました。検査当日は午前11時にクリニックに到着しましたが、腸内を更にきれいにするために再び液体の下剤を1L服用、その後、別の(少し強めの)下剤を2L服用しました。そのため検査が実際に始まったのは1時半過ぎでした。

受診したクリニックでの検査は、“全身麻酔のリスク”が想定される“循環器系・呼吸器系の病気が有る方”などの特殊な方を除き、全身麻酔(静脈注射)で行われていました。担当の先生が「今から麻酔の注射をします。目が覚めた頃にはすでに終わっていますから心配しないで・・」と言いながら点滴ラインに麻酔薬(白色の液体)を注射するのが一瞬見えましたが、私が覚えているのはその瞬間まで。 目が覚めた時には点滴をされたままベッドに寝かされていました(M・ジャクソンが使用していたとされる麻酔薬も同じような薬のようです)。目の前にはトレイの上に食事が準備されていました。全くわけが分からない状態でしたが、とりあえず目の前の食事を頂きました。

検査後の説明で
検査後の先生の説明によると、“ピロリ菌によると思われる逆流性食道炎”、“小さいポリープが5個見つかったのです。そのうち4個は5mm以下であったため、内視鏡下でポリープごと切除、残りの1個は5mm以上であったため、一部粘膜を切除した後、2箇所縫合処置を施行して頂きました。

日本では医療保険システム上の関係で、5mm以下のポリープは通常、病理検査(バイオプシー)を行い、良性であれば経過観察とする場合が多いようですが、私の場合は海外在住のため、しばしば帰国することが難しいため、(事前に先生にお願いして)全て切除して頂きました。消化器専門医である先生のお話しによると、たとえ5mm以下の良性ポリープであっても10年、15年経過を見ていると悪性になる場合があり注意が必要だそうです。

検査後、先生より、①検査後1週間は検査前と同様に“食事制限”が必要であること、②1週間の“ピロリ菌除菌治療”が必要であること(3種類の薬 [抗生物質2種類と胃薬1種類]を服用)”、③検査後も約1ヶ月は胃腸系の薬を飲み続けなければならないこと、④検査後少なくとも1週間は長時間歩いたり、激しい運動をしたりするのはなるべく避けるように告げられました(ポリープ切除後、まれに消化管の穿孔を起こすことが有るため)。

嘘のように消えた『夜間の胸焼け』
1週間にわたる“ピロリ菌除菌治療”の効果はすぐに現れ、1年以上悩まされ続けた“夜間の胸焼け”はウソのように消失し、大変調子が良くなりました。ピロリ菌は現在、①内視鏡検査時(培養、ウレアーゼテスト[ピロリ菌の出すウレアーゼを検出])、②呼気テスト(ピロリ菌の出す呼気中のアンモニアの濃度を測定)、③便中のピロリ菌抗原、④血液中のピロリ菌抗体など様々な方法で検査可能です。
胸焼けなどの逆流性食道炎の症状のある方、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の症状(食前、食後の上腹部痛など)のある方、実際に、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などを過去に指摘されている方は医療機関を受診することをお勧めします。 
(以上)