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ニュースレター(機関紙)

JOMF派遣医師便り
NL09030101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国、医療事情

◆シンガポール

シンガポール日本人会クリニック
日暮 浩実

◇Vaccine for H5N1 Influenza virus

先月、シンガポール政府はH5N1型インフルエンザウイルスに対するワクチンを今後6カ月以内に130万人分、備蓄することを決定しました。ちなみにアメリカでは既に2600万人分、アイルランドやスイスでは全国民分以上のワクチンが確保されています。
この背景には2007年頃終わりごろから顕在化し始めたタミフル耐性のインフルエンザウイルスの増加という事実があると思われます。

現在、世界では、季節性のインフルエンザとしては3種類が同時に流行しています。そのうちH1N1型インフルエンザウイルスが原因のインフルエンザは全体の1/3-1/2ですが、このH1N1型のほとんどに対してタミフルが効かないとする報告がヨーロッパ、オーストラリア、南アフリカ、アメリカそして日本からもありました。また、鳥インフルエンザであるH5N1型に対しても25%ぐらいがタミフル耐性と考えられるという報告もあります。

世界の抗インフルエンザ薬市場のうち90%はタミフルが占めています。抗インフルエンザ薬の備蓄をしている国では、多くがタミフルを中心に抗インフルエンザ薬を備蓄しています。理由としては、タミフルは、経口薬であり、1歳以上の子供に使用可能ですが、これに対してもう一つの抗インフルエンザウイルス薬であるリレンザは吸入薬であり、また、年齢の小さいお子さんには使用が難しいなどの点があり、敬遠されがちであったと推測されます。

シンガポールは現在150万人分のタミフルを備蓄していて、抗インフルエンザ薬全体として今後170万人分まで増やす計画です。リレンザはまだ、5万人分にしか過ぎませんが今後比率を増やしていこうという動きがあります。他の国、例えば、イギリスでは、新たに購入する1800万人分のうち、約60%をリレンザにするとし、リレンザの販売元のグラクソスミスクライン社と契約したことを1月末に発表しています。日本の備蓄量はタミフル2800万人分、リレンザ135万人分といったところです。

現時点では、タミフル耐性のインフルエンザウイルスにも全てリレンザは効力があるとのことですが、作用機序が似ていることから、リレンザも耐性化していくことは遠い将来でない可能性があります。この現状を打破すべく、日本では更に別のタイプの抗インフルエンザ薬を開発しようとていますが、まだ実現には至っていません。
薬とウイルスのいたちごっこかから脱する解決策として考えられるのがワクチンです。

ただ、現在のインフルエンザワクチンは、ウイルスの表面蛋白を基に作られており、この型が毎年少しずつ変化するため、毎年打ち直さなければなりません。そのため、このH5N1型インフルエンザに対するワクチンが、今後発生する新型インフルエンザにどの程度効果があるか正しいところはわかりません。また、新型インフルエンザがH5N1型でなければ、効果はまず期待できないことになります。
日本の国立感染症研究所を中心とする研究チームやイギリスのオックスフォード大学などが、そうした表面の蛋白でなく、ウイルス内部の“より変化しにくい蛋白”を基にしたワクチンを開発中です。ただ、実現までにはまだ、数年を要するとされています。



◆マニラ

マニラ日本人会診療所
小栗 千枝

◇アレルギー性鼻炎

日本では花粉症の季節ですね。現在、日本人の約20%がスギ花粉症と言われています。フィリピンでは花粉症はありませんが、一年を通して鼻炎症状のある方も少なからずいます。ディーゼル排気による大気汚染、ハウスダストや食生活の変化など、様々な原因が組み合わさって発症しているものと思われます。
今回は、アレルギー性鼻炎の話です。

アレルギー性鼻炎は、IgE抗体が関与するⅠ型アレルギーの代表的疾患で、くしゃみ、鼻水、鼻閉などを主徴とします。
その発症は、鼻粘膜のマスト細胞の抗原抗体反応による即時型反応と、リンパ球やマスト細胞などから放出されるサイトカインが関与する遅延型反応が混合したもので、これに加え、遺伝的素因、温度や気圧の変化、大気汚染などの因子が複雑に絡み合って病状を形成しています。
アレルギー性鼻炎には季節性と通年性があり、季節性アレルギー性鼻炎の代表的なものが花粉症です。通年性アレルギー性鼻炎の代表的なものは、ハウスダストによる鼻炎です。

治療
他のアレルギー疾患と同じように、アレルゲン(アレルギーを起こす物質)が分かっている場合、それを避けることが重要です。ただし花粉やハウスダストなどの場合、症状が出ないほど減らすことは不可能なので、薬物療法が必要になります。

[アレルギー性鼻炎診療ガイドライン]
アレルギー性鼻炎診療ガイドラインでは、重症度別、病型別に、抗アレルギー薬の使い方が記載されています。
くしゃみ、鼻水に対しては抗ヒスタミン薬やメディエーター遊離抑制薬、鼻閉に対してはロイコトリエン受容体拮抗薬やトロンボキサンA2受容体拮抗薬が使われ、より重症の場合、ステロイドが併用されます。

1.軽症
①第二世代抗ヒスタミン薬 ②メディエーター遊離抑制薬 ①、②のいずれか1つ

2.中等症
1)くしゃみ、鼻水型:①第二世代抗ヒスタミン薬 ②メディエーター遊離抑制薬 ③点鼻ステロイド薬
2)鼻閉型:①ロイコトリエン受容体拮抗薬 ②トロンボキサンA2受容体拮抗薬 ③点鼻ステロイド薬
①、②、③のいずれか1つ 必要に応じて①または②に③を併用

3.重症
1)くしゃみ、鼻水型:点鼻ステロイド薬 + 第二世代抗ヒスタミン薬
2)鼻閉型:点鼻ステロイド薬 + ロイコトリエン受容体拮抗薬またはトロンボキサンA2受容体拮抗薬、必要に応じて点鼻血管収縮薬(最長1週間まで)
鼻閉型で、鼻腔形態異常を伴う症例では手術

・抗ヒスタミン薬
鼻水、くしゃみ、かゆみに効果がありますが、鼻閉にはほとんど効きません。第一世代抗ヒスタミン薬は、緑内障、前立腺肥大症の方は使わないで下さい。一般には、副作用の少ない第二世代抗ヒスタミン薬が使われます。ジルテック(Cetirizine)やクラリチン(Loratadine)は、フィリピンでは処方箋なしで手に入ります。
点鼻抗ヒスタミン薬は、眼症状がない軽症の時や経口薬を増やしたくない時に使われます。アゼプチン点鼻薬(Azelastine nasal spray)は、フィリピンでも手に入ります。

・メディエーター遊離抑制薬
作用時間が4~6時間と短く、点鼻ステロイド薬と比べると効果が弱く、頻回に使わなくてはなりません。季節性アレルギー性鼻炎には発症前に使用を開始し、季節の間継続します。インタール点鼻薬(Disodium cromoglycate nasal spray)は、フィリピンでも手に入ります。

・ロイコトリエン受容体拮抗薬
鼻閉に対しては抗ヒスタミン薬よりも有効ですが、点鼻ステロイド薬よりは効果が落ちるといわれています。効果が出るまでに2週間ほどかかります。シングレア(Montelukast Na)は、フィリピンでも手に入ります。

・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
鼻閉に対して使います。フィリピンでは、同等の薬はないようです。

・ステロイド薬
アレルギー性鼻炎に対し効果は最も高いのですが、副作用もあるので、重症の場合でなければ第一選択薬にはなりません。抗ヒスタミン薬などと併用することで、なるべく使用量を減らすようにします。経口薬の方が、点鼻薬よりも効果が高くなります。初期は定期的に使用し、症状が落ち着いたら頓用に切り替えます。点鼻薬の場合、まれではありますが鼻中隔穿孔が起こることがあるので、鼻中隔ではなく耳側に向けてスプレーするようにしてください。フルナーゼ点鼻薬(Fluticasone propionate nasal spray)、ナゾネックス点鼻薬(Mometasone furoate monohydrate nasal spray)は、フィリピンでも手に入ります。

・血管収縮薬
鼻閉には効果がありますが、それ以外の鼻炎症状にはほとんど効きません。点鼻薬の方が、経口薬よりも効果が高いのですが、薬剤性鼻炎の危険があるため、使用は一週間までにしてください。点鼻薬は、副鼻腔炎、上気道炎、飛行機での気圧の影響による痛みや中耳炎の予防にも有効です。ナシビン点鼻薬(Oxymetazoline HCl nasal spray)、コールタイジン点鼻薬(Tetrahydrozoline HCl nasal spray)は、フィリピンでも手に入ります。

ストレスとアレルギー
心理的ストレスは、直接アレルギー性鼻炎の原因となることはありませんが、誘発因子、準備因子、持続増悪因子として関与するとされています。

東洋医学的に
東洋医学的には、アレルギーを水毒と考えます。

急性期には水毒として治療、寛解期には体質改善を目的とした治療を行います。急性期の、くしゃみ、鼻水型には小青竜湯、麻黄附子細辛湯など、鼻閉型には葛根湯、辛夷清肺湯など、寛解期には、体質に応じてそれぞれ当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、小建中湯、真武湯、八味地黄丸などの漢方薬が使われます。

食事は、主食はパンよりはご飯を、いろいろな色の野菜をバランスよく摂りましょう。冷たい飲み物(アルコール、炭酸飲料、牛乳など)、夏野菜や南国の果物、油物、甘い物は、なるべく控えましょう。適度な運動も必要です。

現代病としてのアレルギー
かつてアレルギーは、遺伝や体質が原因とされていました。しかし現在、それだけでは説明がつかないほどアレルギーをもつ人の割合が増えており、環境汚染、住居、食生活の変化、多量の化学物質、睡眠不足や心理的ストレスなど様々な要因が、その発症に関連していると考えられています。昔の生活環境に戻るのは今さら無理な話ですが、それぞれが先ず自分の生活を見直してみることも必要かもしれません。



◆ジャカルタ

ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室
高橋 良誌  

◇ジャカルタの2年間 その1

この3月でジャカルタジャパンクラブ医療相談室の2年間の勤務を終えることになりました。いろいろな方にお世話になり、ジャカルタ在住の日本人のための医療相談を行い、またいろいろな経験をさせていただきました。この場をかりて、お礼を申し上げます。誠にありがとうございました。
さて、今回が最後の文章となりました。テーマはひとつでなく、これまでに感じたことを述べさせていただきます。

デング熱
蚊が媒介するウィルス感染症として、熱帯地方ではポピュラーな病気です。ジャカルタでも比較的多数の日本人がかかる感染症の一つで、主に雨期に発生が多く見られます。雨期には、幼虫のボウフラが生息する水たまりができやすいことが、デング熱が多く発生する原因だと言われています。

蚊に刺されてから3日から1か月の潜伏期を経て、発症するといわれていますが、ジャカルタでの患者さんを見ている限り、3日から1週間ぐらいの潜伏期間が多いようです。発症すると3日から5日くらいの高熱期があり、その後数日で徐々に解熱してきて、おおよそ2週間の経過で回復するひとがほとんどです。ワクチンや特効薬がなく、解熱剤などの対症療法を行いながら、自分の抗体ができてウィルスを排除してくれるのを待つことになります。

ジャカルタでの日本人の患者さんをみてみますと、JJC医療相談室を受診される患者さんに限っていえば、入院した患者さんは少数派で、多くの患者さんが外来通院で回復されています。命の危険もある感染症なのですが、普段の栄養状態、健康状態に問題のない体力のある患者さんについては、入院しないという対応も可能でした。
「体力の消耗が激しく、食事や水分が満足にとれない」「ほとんど動けないくらいに全身倦怠感が強い」というような場合には、入院する必要があるでしょう。入院したとしても、 状態が変わったときにすぐに対応できるくらいのメリットはありますが、 基本は対症療法なので安静にして点滴をする以外、特別な治療法はありません。

デング熱の重症型、デング出血熱というものがあります。デング熱の特徴として、血液中の血小板という細胞(正確には細胞といえません)の数が減ります。血小板があまりに減りすぎると、血液が固まりにくくなり、出血が止まらなくなるという現象が起きます。
「このような状況になると命の危険が出てくる」と理解されるわけですが、実際にジャカルタでの患者さんの経験からみますと、血小板の数だけが問題ではないように思われます。実際に血小板2000(2万ではありません)という最低値を経験して、普通に回復された患者さんがいます。
この数字は検査ミスではないか、と疑いたくなりますが、時系列の検査数値をみていきますと流れに沿った経過であり、少なくとも1万以下になっていることは事実だろうと思われます。実際にその時期には、患者さんは腕や足に青あざができやすい(内出血しやすい)という症状もあったとのことです。
しかも、この患者さんの場合、血小板が最低値になる頃には、熱も下がっていて、「こんなに元気になっているのに、なかなか退院させてくれない」という相談がよせられ、全身状態と血小板の数値とのギャップをまざまざと感じさせられました。「血小板が減ることだけが問題ではない」ということを実感した患者さんでした。その後、デング熱で血小板数が2万になっても入院を希望されない場合、一般的な事項を説明した上で、相談室の外来で診た患者さんもいらっしゃいました。

血小板数がある程度まで下がるとこの成分の補給(血小板輸血)を考えなければなりません。しかし、ジャカルタでのデング熱の患者さんでは「血小板輸血」を受けた人はありませんでした。インドネシアのデング熱の経験豊富な医師は、全身状態をよく見きわめて、ただ血小板数が下がっただけでは慌てないようです。ですから、血小板数2千の患者さんでは、さすがに退院はさせてくれませんでしたが、血小板輸血をせず落ち着いて対処してくれていたようです。
デング熱に関しては、入院が必要になっても経験豊富なインドネシアの病院で治療するのが一番だと思われます。


輸血
血液には、赤血球、白血球、血小板、血漿蛋白が含まれていて、それぞれに役割があり、それらが足りなくなったときに輸血で補います。どういうときに輸血するか、というのは一定の目安はあるにせよ絶対的な基準があるわけではありません。
一昔前の日本の医療では、本当に必要かどうかを深く考慮せず、「やらないよりやった方が少しでもよくなる」といったような曖昧な適応で、血液製剤を含めた「輸血」が行われてきたことがありました。今では、輸血も「他人の細胞または体液」を入れるわけですから「臓器または組織移植」に準ずるものとして、適応を十分考えなければならないものと位置付けられています。
平たくいえば「本当に必要なときにするべきことで、できるだけしないですむように対処しなさい」ということだと思います。

デング熱に関連して、血小板輸血について述べますと、大出血を予防するという意味合いで重要なのですが、「この数値以下になったら絶対に入れなければならない」という科学的な根拠をもったラインはありません。
「現在出血している、もしくは今から手術しなければならない」という場合には、血小板数が5万以上あっても補給するべきときがあります。また、別の状況では血小板数が1万になっても補給しない場合もあるでしょう。
私も日本の病院に勤務していた頃は、血小板補給に関しては悩みましたが、3万以下になって補給を考え、1万以下になっても補給しないということも数多くありました。血小板数が自然に回復に向かう、ということが全身状態が回復していることのひとつの指標にもなりえます。

ジャカルタでの輸血事情はどうでしょう。
ジャカルタでは、下血がなかなか止まらなかった患者さんが赤血球輸血を受けました。この患者さんは、持病の狭心症発作も併発してしまったため、やむを得ない選択だったと考えられます。この患者さん以外では、私の知る限りこの2年間で輸血を受けた患者さんはありません。
概ね、インドネシアの医師はそんなに輸血を勧めるということはないものと思われます。

以前、ジャカルタのJl. Kramat Rayaにある、インドネシア赤十字血液センターに見学にいく機会がありました。そこでは、採血をする場所は大部屋でしたが、採血前の腕の洗浄消毒は、むしろ日本より入念に行われていました。採血は、250cc、350ccの2種類のバッグがあり、日本の200cc、400ccとは違っています。
血液は遠心分離されたあと、赤血球、血漿、血小板などの成分に分け保存されます。また、ひとりの献血者から血小板、血漿、顆粒球(白血球の1種)などの成分採血を行う装置も備えられていて、日本と変わりません。
採血した血液の検査としては、肝炎、梅毒、HIV(エイズウィルス)があり、該当したものは廃棄されます。HIVの検査にについては、抗体検査法を採用しているので、日本と比べると、感染していても検査で陽性にならない期間が長くなってしまう、という難点があります。

輸血を受ける人が検査料を負担すれば、核酸増幅法という日本と同じ検査をしてもらえます。「すぐに輸血しなければ命に関わる」というような緊急事態を除いて、その検査を依頼すると日本と同じ基準にあった輸血を受けることができます。

日本人の血液型は、A、O、B、AB型の順に多いのですが、インドネシア人の血液型は、O、B、A、AB型の順に多いとのことです。Rh型に関しては、日本と同じようにRh(+)が圧倒的に多く、Rh(-)型はきわめて少数です。そのため、「あらかじめRh(-)のひとを登録しておき、必要になったときに連絡をして献血に来てもらう」というシステムをとっています。


(編集部より:今回は高橋先生よりジャカルタ勤務の締めくくりということで長いご寄稿が寄せられました。続きは次号でご紹介します。)



◆大連

大連市中心医院日本人医療相談室
星野 眞二郎

◇メラミン摂取と健康被害について(続報)


昨年11月のニュースレターにて“食の安全について”というテーマで記事を書かせて頂きましたが、今回はその続報です。
昨年の9月、乳幼児用粉ミルクを生産する中国国内メーカー20社以上で、メラミンが意図的に混入された可能性があることが報道されました。腎臓・尿管・膀胱などに異常を認めた患者数は29万人以上にも上りました。また、粉ミルクとの関連性が否定出来ない乳幼児の6人の死亡例(いずれも急性腎不全)が複数報告され、メラミン摂取との関連性が疑われました。 
牛乳の蛋白質含量は、窒素含量を測定する方法で検査されるため、蛋白質成分である窒素を多く含む (重量比で約66%)メラミンを混入すれば、蛋白質含量を高く偽ることが出来るといわれています。
北京市衛生局の調査で、同市の乳幼児の約25%がメラミン汚染粉ミルクを摂取したと想定されています。
この事態をうけて、2008年9月12日中国政府は乳幼児の検診を無料で実施することを発表し、当院でも“専門の外来”が約1カ月間、臨時で設けられました。

この、日本でも話題になった中国国内の“メラミンによる健康被害”について、New England Journal of Medicineという有名な臨床医学系の雑誌に論文が掲載されました(2009年3月12日版)。
“メラミン汚染粉ミルク摂取と尿路結石の発症”との関連性は示唆されていたものの、詳細な検討はこれまでなされていませんでした。
この論文の内容を簡単に紹介したいと思います。

[方法] 北京大学第一病院を2008年9月17日から10月3日までに受診した生後36カ月までの589名の乳幼児を対象に、性別、体重、出生週数、既往歴(尿路結石等)、授乳歴、生活歴(メラミン曝露歴)等について、保護者より質問票調査を行いました。メラミン曝露歴については、メラミンの含有量により、国内産22種類の乳幼児用粉ミルクを、①大量(>500ppm)、②中等量(<150ppm)、③非汚染(0ppm)の3群に分類して、身体所見(尿量減少、浮腫みの有無等)、各種検査(尿検査、血液検査[肝機能・腎機能]、超音波検査)との関連性を調べました(メラミン含量は粉ミルクの種類によって、0.1ppm~2500ppmの広範囲にわたりましたが、150~500ppmの範囲のメラミンを含む粉ミルクは無かったそうです)。

[結果] 調査対象である589名中421名がメラミン汚染粉ミルクを摂取していたそうです。超音波検査にて50名に尿路結石が認められたが、このうち、42名はメラミン汚染粉ミルクを摂取しており、8名はメラミン汚染粉ミルクを摂取していなかったそうです
 また、尿路結石が見つかった乳幼児のうち、尿検査にて血尿を認めたものが5.9%、白血球尿を認めたものが2.9%であり、この割合は、それ以外の場合(つまり、尿検査結果から、尿路結石が疑われたが超音波検査にて尿路結石が無かったもの、あるいは、尿検査・超音波検査ともに正常だったもの)と比較して、統計学的に有意な差は認めなかったそうです(尿検査の所見のみでは尿路結石の有無は判断出来なかった、つまり、超音波検査をしなければ、診断がつかなかったということになります)。

[結論] 大量メラミン含有粉ミルクを摂取した乳幼児が尿路結石を有する確率は、非汚染粉ミルクを摂取した乳幼児の7.0倍であったそうです。また、早産児は、結石を有する確率は正期産児の4.5倍だったそうです。

[考察] メラミンを大量に摂取した場合には尿路結石のリスクが高まる、また、その影響は腎機能が未熟な乳幼児において特に顕著に認められることがわかった。

しかし、今回の研究の対象は、北京市内の病院を受診した乳幼児であり、比較的限定した地域の乳幼児を対象としていること、腎生検 (糸球体障害・尿細管障害の有無等、腎臓の病理組織学的検討)が行われていない等の問題点がある。“メラミンが腎臓そのものに与える影響”の詳細については、今後、更なる研究が必要である。

(最後に) 関連する粉ミルク製造メーカーの責任者数名が、“公共安全危害罪”で、またメラミン混入を知りながらこれを販売した販売業者の責任者数名が“劣悪製品販売罪”で死刑あるいは無期懲役の判決を受けたそうです。現在では、メラミン含有粉ミルクあるいは乳製品は市場から姿を消したと考えられていますが、今後、同様の事件が起きないかどうか注意する必要が有ると思われます。

“体に良いとひたすら信じて、毎日こつこつと摂っていた食品が原因で、重大な健康被害がもたらされる場合が有る”というのはあまりに衝撃的でした。
また、同時に“これを食べていれば、病気知らず、あるいは、確実に痩せる、身体に良いなど”、マスコミで話題になるいわゆる“健康神話”がいかに危ういものであるか痛感するとともに、日頃、口にしている食品の安全性についてあらためて考えさせられる事件でした。
                                 
(以上)