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ニュースレター(機関紙)

JOMF派遣医師便り
NL08100101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国、医療事情

◆シンガポール

シンガポール日本人会クリニック
日暮 浩実

◇社内で新型インフルエンザを疑われる患者さんが出たら(シンガポール国内の場合)

社内で新型インフルエンザを疑う患者さんが出たときにはどう対応したらよいでしょうか?
会社では実際に患者さんが発生した時の対応策をあらかじめたてておくと安心です。シンガポール厚生省(MOH,Ministry of Health)ではどのように考えているのか、MOHのホームページにそってお話します。(詳細は実際にホームページを御覧になりご確認下さい。)

新型インフルエンザが出現するのはAlert YELLOW(Alert levelに関しては2008年3月の記事を御参照下さい)の段階です。
Alert YELLOWの段階では、新型インフルエンザが発生した国への渡航歴(10日以内程度)があり、インフルエンザ様の症状(概ね38度以上の熱、咽頭痛、関節痛、咳、鼻水、くしゃみなどです。全てがそろう必要はありません)があったら、その人は新型インフルエンザの疑い例となります。

1.疑い患者さんがでたら、まずは疑い患者さんにマスクをさせることが第一です。この時、会社の備え付けのマスク(サージカルマスク)を探してきて取り出すのではなく、患者さん自らが、進んでマスクをすること、つまり皆さん一人一人がマスクを常時、携行しておくことが、より良い方法と思います。それから、周囲の人に助けを求めるということになります。

2.介助に当たる人はSARSにも有効性があったN95以上のマスクをして、介助に当たります。介助役は疑い患者さんの近くの席の方にならざるを得ませんので、会社員の方は常に自分が介助役になる可能性があることを考えておかなくてはなりません。

3.疑い患者さんを社内で隔離します。別室に移動させます。トイレも別にします。

4.それから、特別の救急車(コール番号993、Alert YELLOW以後に利用可能)を呼ぶか、医療施設に電話連絡してから受診します。電話連絡せずに、医療施設を訪れることは決してなさらないで下さい。連絡せずに来院されますと、たまたまその医療施設の待合室に居合わせた患者さんが接触者になりますし、医療スタッフも接触者となる可能性が高いです。本当に新型インフルエンザであった場合には、接触者は7日間自宅待機となるため、医療施設が閉鎖となる可能性があり医療の提供に大きな支障がでてしまいます。感染を広めないようどうかご理解をお願い申し上げます。

電話連絡があれば、医療スタッフは必要な感染防御策を整えて待機します。診察の結果、疑いが濃いとなれば特別の救急車(コール番号993)を呼び、CDC(伝染病センター,Communicative Disease Center)に搬送いたします。そこで詳しい検査が行なわれますが、確定診断には数時間から1日以上の時間がかかります。

5.その間、疑い患者さんが出た会社の方は、其の方が本当に新型インフルエンザであった場合に備えて、接触者のトレースを開始して下さい。これはPOC(Point of Control,次に述べるICTTのリーダーで、対外的連絡役ともなる)ICTT(Institution Contact Tracing Team,接触者を見つけ出す役、数名の人数が必要) がその任にあたります。これらを誰が行なうかは事前に決めておく必要があります。

接触者の定義は患者さんが発症する48時間前の時点から、隔離施設に入院するまでの間に、防御なしで2メートル以内の距離で接触した人となっています。ICTTはこうした人を見つけリストアップしPOCがMOHへ報告します。報告書のテンプレートはシンガポール厚生省(MOH)のホームページに掲載されています。MOH はこの報告により、誰が本当に予防内服をすべきかを決定します。少なくともAlert REDの初期までの方針は、“感染の封じ込め”です。ですから、この接触者トレースは大変重要です。既に患者さんが大量となったAlert REDのある時点からは、このトレースも意味を成さなくなり(つまりそれまでの封じ込めの失敗を意味する)、中止されます。

ちなみにAlert REDからはFRAME WORK(2008年3月の記事を参照して下さい)が稼働し始め、患者さんは基本的に全て外来で治療を受けるということになっています。

6.接触者トレースのほかにさらに、もう一つ会社が行なうべきことがあります。それは、患者さんが使用した場所のクリーニングです。クリーナーの人が2次的に感染を受けないように注意する必要があります。クリーニングを行ない、その後24時間は原則としてその場所は使用しないということになります。詳しいクリーニングの方法は、シンガポール厚生省(Ministry of Health)のホームページを御覧ください。

周到な準備をして流行に備えましょう。



◆マニラ

マニラ日本人会診療所
小栗 千枝

◇薬物乱用頭痛

皆さんは薬物乱用頭痛という言葉を聞いたことがありますか?
もともと片頭痛や緊張性頭痛を持っていた人が、頭痛を恐れるあまり片頭痛薬や鎮痛剤を過剰に、また頻回に使用することによって、結果的に更に頭痛が悪化し、薬が手放せず、悪循環に陥っていく、という状態です。
今回は薬物乱用頭痛についての話です。

疫学
多くの頭痛センターの統計では5~10%の頻度で、一般には片頭痛の0.5~1%、緊張型頭痛の0.3~0.5%と推定されています。頭痛保有期間は平均18年です。
性格的な背景として、不安、強迫的、うつ的な人がなりやすいと言われており、50才代の女性にやや多いようです。

頭痛の性質
ほぼ毎日(1ヵ月に15日以上)頭痛があり、早朝起床前から、後頭部~頭部全体の、拍動痛~鈍痛で(強さ、型、場所が変化する)、悪心嘔吐を伴います。
ごくわずかな身体的・精神的ストレスで頭痛が起こります。
無力症、悪心、そわそわ、易刺激性、記憶障害、集中困難、うつを伴うこともあります。
とくに鎮痛薬、鎮静薬、カフェイン、エルゴタミンなど何種類かを組み合わせて使用する人に見られ、鎮痛薬に対する耐性が生じ、徐々に服用量が増していきます。
急に薬を中断すると、退薬症状が出現します。
もともと頭痛のある人に起こるのであって、腰痛や関節痛で鎮痛剤を多用しても頭痛が起こるわけではありません。

本態
薬物乱用頭痛に陥る機序は、神経細胞の過敏性にあるとされており、鎮痛剤などを連用することにより、神経細胞の痛みに対する閾値を低下させ、痛みに敏感とされている脳幹部の被蓋部もしくは黒質からドーパミンの過剰放出が起こり、大脳辺縁系が感作されやすくなり、結果として痛みに敏感になり、頭痛が生じやすくなると想定されています。
また陥る前の本来の頭痛は、片頭痛であることが多いのですが、痛みの情報伝達の過程で、セロトニン作動薬であるトリプタンやエルゴタミンを連用することにより、セロトニン系の抑制系がはずれ、薬物乱用頭痛に陥るものと想定されています。

また、慢性頭痛患者はセロトニン性中枢性痛覚抑制系に障害があり、鎮痛剤連用によりさらに障害される=痛覚閾値が低下する、エルゴタミン連用者は辺縁系、視床下部・下垂体・副腎系、青斑核のレセプターに変化がある、などのことが分かっています。

原因薬剤
下記薬剤を3ヶ月以上の期間、定期的に頻用したときに起こります。

単純鎮痛薬 : 週5日以上(アスピリン、アセトアミノフェン 1000mg以上)
合剤鎮痛薬(カフェイン、バルビツレートを含む) : 週3日以上(毎日3錠以上)
オピオイド : 週2日以上(毎日1錠以上)
エルゴタミン : 週2日以上(1mg錠または0.5mg坐薬)

トリブタン : 週2日以上

片頭痛治療薬として使われていたエルゴタミンは、以前から長期連用について、末梢での動脈炎の併発、手指の壊疽、早産の危険性などが問題視されていましたが、今年3月、エルゴタミンと無水カフェインの合剤であったカフェルゴット錠は製造・発売中止となっています。

予防と治療
先ずは医者と患者が薬物乱用頭痛の存在について知っていること、そして痛いからといって安易に薬を増やしていかないことが大事です。

有効な薬ほど薬物乱用頭痛までの期間が短い、つまり、エルゴタミンや鎮痛薬に比べて、トリプタンは薬物乱用頭痛の発生が最短で起こります。受容体の過敏化のためです。
とくに頻回に片頭痛を起こす人は、安易にトリプタンを開始しないほうがいいかもしれません。また、トリプタンを開始しても、週毎あるいは月毎の服用回数に制限が必要です。

今のところ証拠に基づいた確立した治療法はありません。
治療の原則は、先ず原因薬物の中止、そして薬物中止後に起こる頭痛(本来の頭痛も含め)への対応、脳の過敏性を抑制する予防薬の投与です。

頭痛は、薬の中止後3日以内に起こり、1週間ほど続きますが、1ヶ月以内には寛快する、もしくは元の頭痛のパターン(多くは片頭痛)に戻ります。薬によっては、禁断症状として、悪心嘔吐、下痢、不安、不眠などの症状が現れます。

アセトアミノフェン、アスピリン、カフェインなどの比較的弱い鎮痛剤は突然中止しても大丈夫ですが、麦角アルカロイド(エルゴタミン)、バルビツレート含有鎮痛剤、麻薬(モルヒネなど)は禁断症状が出てくるため入院が必要です。

離脱のときには以下の薬が使われることがあります。
・片頭痛予防薬(塩酸ロメリジン:ミグシス、テラナスなど)
・三環系抗うつ剤(トリプタノールなど)
・抗てんかん薬(デパケンなど)
・鎮痛薬
・制吐剤

しかし、長期予後では約40%が再び薬物乱用を起こしてしまう、と言われています。
バルビツレート、麻薬(オピアトなど)使用者、また、うつ病を合併している人は、再発率が高くなります。


思い当たる人は、いちど神経内科もしくは脳神経外科で御相談ください。これからも頭痛に振り回される人生を送らないためにも。



◆ジャカルタ

ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室
高橋 良誌  

◇ジャカルタの水と水系感染症

早いもので、ジャカルタに来て1年半が経とうとしています。ジャカルタへの赴任が決まって、ジャパンクラブをはじめとした現地への挨拶と下見にきたのは、2007年の2月1日だったのですが、その日のジャカルタは、大雨と洪水で私たち夫婦を迎えてくれました。熱帯地方の雨の降り方と排水機能が脆弱の都市の洪水を、目の当たりにしたのですが、今年の日本は、各地で大雨と洪水のニュースが目立ち、雨の降り方はまるで熱帯のようです。ここにも温暖化の影響が出ているのでしょうか。
ジャカルタもそろそろ雨期に入りますし、今回は水に関連する話とします。

ジャカルタの水
私の住んでいるアパートもそうですが、ジャカルタの水道の水は濁っています。バスタブにお湯をはると、全体が茶色になり底にはなにか茶色の泥のようなものが残ります。あの茶色に濁った水は、いったいどこから来ているのでしょうか。

水源は、ジャカルタ市街から南東へ100km余のジャティルフル湖だそうです。この水がブアラン第1浄水場およびプジョンポンガン、プロガドンの浄水場を経て、ジャカルタ市民に供給されています。この湖がジャカルタ市の"水瓶"となっています。

ジャカルタの浄水場の建設、管理については、日本からも技術者が来て指導をしていたとのことです。日本人の技術者が指導にはいっていた頃は「浄水場で処理された水はその場ではそのまま飲むことができ」、「お客さんが浄水場を見学に来られた時には、処理した水を飲んで見せていた」という話もあります。今もその水準を保っているかは定かではありませんが、浄水場で処理された水が、蛇口をひねったときにはあの濁った水になるのですから、水道管に問題があるということになります。たしかに、ジャカルタの水道管は老朽化していて、水質悪化の原因となっているそうです。水道管に穴があいていて、地中の汚水が管内に流れ込むのが主な原因です。 

ジャカルタには下水道が「ない」といっていいほど、普及していません。ホテルにもオフィスビルにもアパートにも、水洗トイレがありますが、この水は最後は地中にしみ込ませているのです。水道管に流れ込んでくる「地中の汚水」とは、「トイレで流した水」といってもいいのです。

水系感染症
水の中にウィルスや細菌などの病原体が存在し、川海や水道などの水を介して、感染が広がる可能性のあるものを、水系感染症と呼んでいます。水系感染症の多くは、飲料水が糞便に汚染されることで発生します。
この糞便というのは、ヒトの糞便だけとは限りませんが、一般にヒト由来の病原体は少量で感染するため、軽度の汚染でも流行が起こりやすいという特徴があります。つまり、ヒトの腸の中で増殖した病原体が、便として排出され、なんらかの経路でヒトの口にはいると発症するのですが、比較的少ない量の病原体でも起こりえるということです。

この「なんらかの経路」ですが、「トイレにいってきれいに手を洗わなかった」としたら、その「手」がヒトの口にはいる食べ物、水、食器などに触れれば、感染する可能性が出てきます。また、「トイレから流された水が、上水道の経路に入り込んでしまう」ということが、その上水道を介して感染が広がる「水系感染症」の典型といえます。

洪水やビルの倒壊などの災害では、市民や救助の警官や軍隊などに危険性が増すことが指摘されており、米国ではカヌー、ラフティングや洞窟探検などの近年のレジャー時における感染の危険性も強調されています。私事ですが、息子たちとバリ島にいって川のラフティングをしたときに、「川に落ちて水を飲んでしまったことで、腸チフスに感染したのではないか」ということもありました。

水系感染症の代表的なものを列挙します。

細菌によるもの
コレラ ……………………… 飲料水、糞口感染、食品
細菌性赤痢 ………………… 糞口感染、飲料水、日用品
腸チフス …………………… 糞口感染、食品、ハエ、飲料水
サルモネラ腸炎 …………… 食品、糞口感染
キャンピロバクター腸炎  飲料水、食品
大腸菌下痢症 ……………… 食品、飲料水、糞口感染
エルシニア症 ……………… 食品、飲料水、糞口感染、血液
レプトスピラ症 …………… 飲料水、土壌、尿との接触     
レジオネラ症 ……………… 飲料水、エアロゾルの吸入

ウィルスによるもの
ポリオ ……………………… 糞口感染、日用品、食品、飲料水
A型肝炎 …………………… 糞口感染、食品、飲料水
E型肝炎 …………………… 糞口感染、貝類、飲料水
ロタウィルス ……………… 糞口感染、飲料水
ウィルス性胃腸炎 ………… 糞口感染、貝類、汚染野菜、飲料水

原虫によるもの
赤痢アメーバ症 …………… 食品、飲料水、性行為
ジアルジア症 ……………… 糞口感染、食品、飲料水
クリプトスポリジウム症  食品、飲料水、性行為
大腸バランチウム症 ……… 食品、飲料水、性行為      

この中で、ジャカルタでも比較的にある感染症としては、腸チフス、細菌性腸炎、A型肝炎、E型肝炎、ウィルス性胃腸炎、アメーバ症、ジアルジア症などがあげられます。

1995年2月、バリ島から帰国した日本人のみ295人が激しい下痢や腹痛、嘔吐などの症状に陥り、隔離され、コレラと診断されたことがありました。この事態に対し、バリ州政府保健大臣は「バリ島にはコレラ患者は存在しない」と発表し、バリ島民に一人も発症者がいないばかりではなく、日本人以外に発病した観光客はいなかったというものでした。

2005年には、やはりバリ島に旅行した8名の日本人がコレラを発症しています。後の調査で、日本人が遊泳していた海に流れ込んでいる川の水のなかに、コレラ菌が存在したということが判明しました。コレラ菌を腸の中に持っているが、病気として症状が出ない「保菌者」が、その川のそばに住んでいて、彼らの糞便が川に流されている、と解釈できます。

洪水と感染症
ジャカルタの洪水のあとは、国立病院などで下痢の患者さんがいっぱいになるそうです。原因の病原体ははっきりしませんが、感染性胃腸炎ないし腸炎の患者さんが増えるということを示しています。JJC医療相談室の患者さんでは、洪水のあとだから下痢の患者さんが増える、ということは今まではありませんでした。日本人はふだんから気をつけているため、そんなに感染しないのだ思います。

インドネシア保健省は、洪水のときに、「細菌性の下痢やデング熱などの感染症を懸念」し、「汚染された水を飲まないよう」住民に注意を呼びかけているのですから、ミネラルウォーターを買っているひとばかりではない、という現実があります。

洪水のときには、ふだん隠れた場所に制限されている病原体が、あふれた水によっていろいろなところにひろまります。また、ネズミなどが巣を追われて出てきたりすることによっても、病原体がひろまります。ネズミの糞尿にも、病原体が多く含まれていて、それがヒトに感染することもありえます。

2007年2月のジャカルタの洪水では、レプトスピラ症によって、9人の死亡者が出たと報告されています。レプトスピラ症は、病原性レプトスピラによる人畜共通感染症です。病原体は、主に感染したネズミの尿から排泄され、汚染された水田や河川、土壌を介して、人には結膜、鼻・のどの粘膜や口の粘膜から経皮的に感染します。 洪水が起こると土壌の中に潜んでいた菌が表面に現れ、また、ネズミの大量発生とともに感染の危険性は高まります。 以前には日本でも田園地帯や山間部で大流行したことがあり、地方病として、秋やみ病などと言われていました。最近は、保健衛生の向上で散発的に発生しているだけのようです。

症状は、3~14日の潜伏期の後、高熱、結膜充血、筋肉痛などが認められます。 大部分は軽症のまま経過しますが、発病後4~5日目に黄疸、出血傾向、腎障害にいたる重症型のワイル病になる例がありますので注意が必要です。 治療方法としては、抗生物質が有効で、主にテトラサイクリン系が使われています。この病気は、経皮的に感染しますので、洪水のときに水に直接触れることが危険なことになります。

ジャカルタの雨期、デング熱などの蚊が媒介するものも含めて、感染症が増える時期ではありますが、手洗いや食事、水に対する注意は乾季と変わりません。2007年の洪水では、94名が死亡したと伝えられています。感染症による死者も含まれていますが、死因の大半は水死か感電死ということでした。レプトスピラという経皮的に感染する病気もありますから、洪水のときくれぐれも水に触れないように注意して下さい。




◆大連

大連市中心医院日本人医療相談室
星野 眞二郎

◇大連における在留邦人のための医療体制(その2)

以前ニュースレターにて、大連における衛生状況一般、市内の主な病院・医院、中国の医師資格、日本人医療相談室、四川大地震について報告させて頂きましたが、今回は前回の続き(続報)です。

今回は、当地における医療費、薬・医療設備、保険使用・適応の有無、その他、駐在員・旅行者が知っておいた方が良いと思われることについて述べさせて頂きたいと思います。

1.医療費について
医療費については、“海外傷害・疾病保険”に加入している場合には、急性の病気(怪我、かぜ、胃腸炎等)に限り、医療費用はかかりません(ただし、慢性の病気、歯科治療、妊娠時の検査、健康診断、美容外科等の場合は除く)。しかし、加入していない場合は全額自費負担になります。
また、大連地区では“カード付帯の保険”は現時点では、原則としてキャッシュレスサービスには対応出来ないため、“現地にて現金で処理し、帰国後に保険会社を通して精算する形”になります。

緊急時に利用する救急車は基本的に有料で、搬送サービスを利用するだけで約200人民元必要になります。車内で各種検査(モニター)、処置を施した場合に費用が加算され、下車時に全ての料金を支払う必要が有ります。また、入院時にはデポジット(一般に2000人民元~5000人民元、日本円で約30000円~75000円程度)を支払わないと一般的には入院することが出来ません。

通常の外来受診時には、カルテを買う必要が有ること(中国では日本と異なり、一般的にカルテならびに検査結果等は患者自身が所有します)、検査を受けたり、薬をもらう毎に費用を支払う必要が有ること-など日本の病院とはシステムが違うため、とまどう場合が多いようです。しかし、急性心筋梗塞などで急を要する病気の際には“緑色通道”といって、先に必要な処置ならびに治療を受けて、費用は後払いで構わないというシステムが採用されている病院も増えてきているようです。当院でも最近、このシステムを導入しました。医療費用は病院によって異なりますが、規模の大きい病院の方が、費用が高い場合が多いようです。診察費はどの医師に見てもらうかによって異なります。この場合、専門医であるかどうか、主任クラス(日本の大学病院でいう教授に相当)かどうか-によって、10元~200元程度、日本円で150円~3000円程度と非常に幅が有ります。

2.薬、医療設備などについて
中国においてはほとんどの薬が医師の処方箋なしに薬局にて購入可能です(最近、一部の向精神薬については医師の処方箋無しには購入出来なくなりました)。従って、“病院は点滴をしてもらう場所”というイメージが有ります。しかし、普通の風邪に対して、本来不必要であるはずの抗生物質の点滴を一律に行うのはMRSA等の耐性菌の問題、あるいは医療費の無駄遣いといった点からも今後、大きな社会問題になるかもしれません。

医療設備については、ある程度の規模の病院では、CT検査、MRI検査(含むMRA)、各種超音波検査(腹部、心臓、甲状腺・頸部、婦人科、頚動脈エコー)、各種カテーテル検査(心臓カテーテル等)が実施可能です。

しかし、各種核医学検査(腫瘍シンチグラフィ、骨シンチグラフィ、心筋・脳シンチグラフィ等)は一般的では有りません。また、日本で一般的になりつつあるPET(PET-CT含む)検査は現時点では大連市内では行うことは出来ません。

ある程度大きな規模の病院では、急性心筋梗塞に対するカテーテル治療(バルーン拡張術・金属ステント留置術など)、脳出血に対する血腫除去術なども可能です。

3.保険使用・適応の有無
日本の社会保険(あるいは国民健康保険)は現地では使用することは出来ませんが、一旦、現金で支払った後に、“海外療養費制度”という制度を利用すると(所定の書類を病院にて記入し、会社や自治体に提出)、非自己負担分は払い戻すことが出来ます。例えば、自己負担が3割の方の場合には7割に相当する額が日本円にて後日戻る形になります(払い戻し金の請求期限は、医療費を支払った日の翌日から起算して2年以内)。しかし、この制度を利用する場合、病院の医師に所定の書類に必要事項を記入してもらう必要があります。(この制度を御存知な先生もいらっしゃるのですが)多くの中国人医師にはなじみがないため、“書類を書いてもらえない”という患者様の声を聞くこともあります。

所定の書類というのは“診療内容明細書(氏名、病名、治療期間、症状、治療内容などを記載)”ならびに“領収明細書(診療費の内訳、診察費、検査費、薬品費、処置費などを記載)”の2種類ですが、いずれの書類も担当医のサイン等を記載する必要が有ります。これらの書類と、現地で発行してもらった“領収書”を併せて各市町村の国保の窓口、あるいは社会保険担当部署に提出します。
ただし、日本国内で保険適用となっていない医療行為(臓器移植、不妊手術、性転換手術、美容整形術、予防接種、健康診断など)は給付の対象になりません。
自然分娩も保険医療対象外ですが、当地の病院で発行された出生証明書が得られれば、出産一時金が支払われます。

4.その他‐駐在員・旅行者が知っておいた方が良いと思われること
(ア)肝炎、エイズなどの感染症については原則として、感染症専門病院である大連市第6医院、特に結核については結核専門病院に入院する必要が有ります。中国においては、ウィルス性肝炎(A型、B型、C型、E型、その他)は他の感染症と同様に、基本的に一定期間指定病院にて隔離の対象となりますので注意が必要です。そのため、これらの病気に罹った場合には帰国して日本で治療を受けた方が良いケースも有ります。

(イ)乳幼児の対応については総合病院の小児科を受診するか、乳幼児・小児専門の病院(大連市児童病院)を受診することになるかと思いますが、自分で症状を訴えられない年齢(特に3歳以下)では、専門病院を受診する方が安心かもしれません。また、日本ではしばしば使用される熱性けいれんの座薬が無い-など薬剤の種類だけでなく、剤形(ドライシロップ等)や規格(mg/錠)が日本ほど豊富でない”、“喘息の吸入治療”や“鼻吸引(いわゆる鼻取り)”が一般的でないことなどが注意点として挙げられます。

(ウ)出産に関しては、一般的な傾向として、妊婦検診の回数が日本ほど多くないので不安になる方が多いようです。
当相談室を窓口にして受診される場合には、希望すれば日本と同じスケジュールおよび内容での検診が可能です。当地にて出産される方は非常に少なく、ほとんどの方が、予定日2~3ヶ月前に帰国され、日本の医院にて出産しています。この理由として、言葉の問題、入院施設の環境に加えて、現地医療に対する不安などが有るようです。出産後は3~4ヶ月位経ってから戻ってこられる方が多いようです。

(エ) アトピー性皮膚炎、花粉症、喘息などのアレルギー疾患患者は日本と比べると非常に少ないため、アレルギーの検査や治療薬も豊富ではありません。また、皮膚科の薬のうち、症状に応じて、数種類の薬剤をあらかじめ調合した外用薬-俗に言う約束処方(各病院毎に組成が決まっている外用薬)は、皮膚科専門病院でないと入手しにくい等、日本と同じ医療を受けるのは難しい場合が多いのも事実です。大連市内では皮膚科専門医院として、大連市皮膚疾病中心が有ります。

(オ) 一般の病院(身体科の病院)には精神科の無い病院が多く、精神疾患は専門病院(精神科専門病院)で治療する(外来・入院とも)のが一般的です。この原因として、中国では、日本と比べた場合、精神疾患患者数が現時点では少ないことが挙げられます。また、“パニック障害”、“摂食障害”、“適応障害”などの疾患概念も日本ほど一般的ではありません。大連市内の精神科専門病院として、大連市第7医院が有ります。最近は一般の病院、つまり、身体科の病院でも、“心理内科”という部門が普及しつつあり、ある程度対応可能になってきています。しかし、処方可能な薬の種類については専門病院に比べる少ないのが現状です。

(カ) 歯科治療-日本人歯科医師も2~3名いますし、日本語が堪能な中国人医師もいます。必要な書類を記載してもらえるようであれば、日本の保険(社会保険、国民保険)も使用可能です。材料費が日本と比べると安いため、同じ費用をかけた場合、高価な材料で治療してもらうことも可能です。しかし、歯科の場合、よほど痛くならないと受診しない方が多いかと思いますので、もし時間的に余裕が有れば、渡航前に歯科治療を済ませておくのも一つの方法かもしれません。

(キ) いわゆる“各科の枠を超えた専門外来”(総合外来、ペイン外来、めまい外来、頭痛外来、禁煙外来、肥満外来、アレルギー外来、老年病外来等)が存在しないために、1人で複数の病気を持っている場合、原因が特定出来ない場合などで、各科をたらい回しにされることがしばしば有ります。今後は、専門科別の外来ではなく、患者を全人的(トータル)に診られる医師および外来が必要になると思われます。

(ク) 外国人の予防接種は一般の病院では実施不可能で、所定の施設(各地区の防疫所等)で行うことになります(小児のワクチン-DPT3種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風)、ポリオ、麻疹・風疹・おたふくカゼ混合ワクチン(MMR)、日本脳炎等、大人のワクチン-A/B型肝炎、破傷風、狂犬病等)。
犬に噛まれた場合の狂犬病予防については、市内の専門医療機関にて、傷口の処置ならびに暴露後ワクチンの接種が可能です(同時に破傷風ワクチン、日本には無い狂犬病免疫グロブリンなどを使った予防治療も可能です)。
当地においては、日本では現在使用されていないMMRワクチンや日本では未だに認可されていない流行性脳髄膜炎のワクチンも接種可能です。

ただ、当地で行われている予防接種については、接種時期や接種回数が日本と異なるので注意が必要です。具体的には、BCGならびにB型肝炎予防接種が当地では生後直後に全乳児に行われています。また、ポリオの接種が日本より1ヶ月早目に開始され、接種回数が1回多いです。
また、世界的には広く行われている多種類のワクチンの同時接種は少なくとも大連地区では行われていません。

(以上)