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ニュースレター(機関紙)

JOMF派遣医師便り
NL08090101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国、医療事情

◆シンガポール

シンガポール日本人会クリニック
日暮 浩実

◇AED TRAININGに参加して

AED(Automated External Defibrillator)(自動体外式除細動器)をご存知の方も多いでしょう。私は2006年7月にAEDに関する記事を書きました。あわせて御参照いただければ幸いです。

その時点ではAEDは日本人会ではクリニックに1台あるだけでしたが、この7月に日本人会会館内に1台、さらに日本人会の施設であるスポーツセンターに1台設置しました。

この器械を買うためには、心肺蘇生術とこの器械を使うための訓練を受けなくてはなりません。そこで、新たに日本人会の職員も8名ほどこの訓練を受けました。

この講習を受けますと、certificateがもらえます。これはAHA(American Heart Association)の公認です。

私たちクリニックのスタッフは2年前にも講習を受けました。このcertificateは2年しか有効でありません。それは定期的に講習を受けさせて記憶を甦がえらせたり、新しい知識を教えることが必要だからです。幸い私たちもこの2年間 AEDを使うケースには一度も遭遇しませんでしたので、記憶を新たにする意味は確かにありました。
この2年の間に心肺蘇生術も少し変わりました。以前は心肺蘇生が必要な患者さんに2回息を送って15回心臓マッサージを行なうというやり方でしたが、変更され、2回息を送ったのち30回心臓マッサージを行なうようになりました。息を送ることよりも血液を循環させることの重要性がより強調されるようになったのです。
また、講習会全体の進め方も変わりました。2年前の講習の際にはインストラクターが、全て口頭で説明し実演、実習しましたが、今回は、主な説明はAHAが作成したDVDで行なわれ、その中に、実習が組み込まれていて、インストラクターが補足しつつDVDの中の指示に従い実習を指導し、講習会を進めていくようになっていました。個々のインストラクターの説明のばらつきが最小限となり、講習会の内容を、かなり、均一化することが出来るように工夫されたと思いました。
また、以前はペーパーテストが実施されていましたが、今回はなくなり、その代わりにインストラクターと1対1で一人一人が実演しつつ、口頭試問を受けるような形で講習内容を理解したかが試されました。試験といっても落とすことが目的でなく、より広く多くの人にこの技能を習得させるということが目的なのでこの方が理にかなっていると感じました。講習の時間は約4時間でしたが、長くは感じませんでした。

実際には何の訓練も受けなくてもこの器械(AED)は使えるように作られてはいますが、心肺蘇生術には訓練は必要です。多くの方が、こうした訓練に参加され、技能を身につけられると良いと思います。



◆マニラ

マニラ日本人会診療所
小栗 千枝

◇太陽光線の話

日本と比べより緯度の低いフィリピンでは年中強い陽射しが降り注ぎ、たとえ海や山のレジャーに出かけなくても、太陽にさらされる機会が多いものです。
今回は、太陽光線についての話です。

太陽光線、その働き
太陽光線は、波長の長い方から赤外線(地球に届く太陽光線の42%)、可視光線(52%)、紫外線(6%)に分けられます。

1)赤外線 : 地球に熱エネルギーを供給しています。地球が凍らないのは赤外線のおかげです。あらゆる生物も赤外線を利用し、体内に熱エネルギーとして取り込んでいます。

2)可視光線 : 人間の目に見える光で、波長の長い方から、赤、橙、黄、黄緑、緑、青緑、青、青紫(いわゆる虹の7色、実際は何十万種類の連続した波長の光)になります。
生物は、可視光線により昼と夜を知り、交感神経と副交感神経の切り替えを行っています。人間の場合は、目から入った可視光線は、脳の中心の視床下部、下垂体、松果体などに届き、自律神経を安定させ、また脳内ホルモン(セロトニン、メラトニンなど)の調節も行っています。
自律神経や内分泌機能を安定させ、情緒にも深く関係しているため、精神疾患や自律神経失調症などの患者さんにも効果があると言われています。

3)紫外線 : 長い順にUVA(6%のうち5.5%)、UVB(0.5%)、UVCに分けられます。UVAは皮膚の深い部分まで到達し皮膚を黒くし(サンタン効果)、UVBは皮膚の浅いところまでしか届かず赤く炎症を起こしたり(サンバーン効果)、皮膚癌の原因になったりします。UVCは、オゾン層により吸収されて地上には届きません。

人間を含め動物は、紫外線(UVA)に当たることで、皮膚下で、身体に必要不可欠な数百種類(ビタミンD3、ヒスタミン、キニン、プロスタグランジン、プラスミンなど)の光合成物質を作り、身体の器官を調節しています。

ビタミンD3は、魚介類や卵、キノコ類にも含まれていますが、紫外線に当たることで、体内で合成できます。食事からカルシウムを吸収し、骨を強くします。また免疫細胞の分化を助け、癌細胞を攻撃するサイトカインの活性化にも役立ちます。

植物は、紫外線に当たることで鮮やかな色を付け、様々な光化学成分(ポリフェノール、βカロチンなど)を作ります。

紫外線と目の病気
1)雪目 : 紫外線による角膜障害です。太陽以外に、雪面や砂浜の反射からも紫外線が入ります。痛くなるのは大抵その日の夜です。角膜の表面に細かい点状のくぼみが出来ていて、瞬きの時にこすれて痛く感じます。目を閉じているほうが角膜の保護になります。翌日になってから眼科へ行けば大丈夫です。治療は角膜保護剤の点眼などです。

2)白内障 : 加齢白内障の原因として最も多いのは糖尿病ですが(他に栄養障害や外傷など)、紫外線の多い地域で加齢白内障の発生がやや多いことから、紫外線も原因の一つと考えられており、最近はそういった論文もいくつか出ているようです。

紫外線は危険?
私が以前住んでいた沖縄では、日本全国平均と比べ全体の癌の発生率が低く、とくに胃癌は日本全国平均の4割ほどです。また、紫外線は強いのに、皮膚癌の発生率を見ると日本全国平均と比べわずかに多いだけです。(年齢別でみると、80歳まではほぼ同じで、80歳以上で沖縄で発生率が増えています。)
ちなみに、日本での年間の癌の発生率は、消化器系の癌17万人、皮膚癌2000人。皮膚癌は決して多い病気ではないということが分かります。最近、ビタミンDに消化器系の癌を防ぐ効果がある、ということも言われており、それも関係あるのかもしれません。皮膚癌については、紫外線の影響がより少ない黄色人種だからというのもあるでしょう。

また沖縄では、元気なお年寄りがたくさんいます。老年学会のデータでは、沖縄の高齢者は実年齢より10歳くらい若いとか。食事や水もさることながら、明るく輝く太陽も関係しているのかもしれません。
標高の関係から、日本一紫外線の多いのは長野県ですが、ここもまた長寿で知られているところです。
皮膚癌が心配だからと言って全く太陽に当たらないよりは、適度に当たったほうがよさそうです。

日光にあたると良くなる病気、悪くなる病気
1)良くなる病気
皮膚科の病気で、乾癬やアトピー性皮膚炎があります。アトピー性皮膚炎については日光が良くないという意見もあるようなので、主治医の先生に相談してください。

2)悪くなる病気
日光に当たった後に皮膚炎が起こる場合、光線過敏症の可能性があります。通常、日光露出部に起こり、薬剤(降圧剤、サプリメント、化粧品、湿布薬など)が原因になることがあります。最近、病院で薬を処方された、また変更した、などの後に、顔や首、腕に赤みや痒みが出てきたという方は、主治医と相談して薬を変えてもらうことが必要かもしれません。長く服用している薬でも、ある日突然出ることもあります。
内科の病気でポルフィリン症、全身性エリテマトーデスも日光過敏を起こします。


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子供のころ見ていたアニメで「アルプスの少女ハイジ」というのがありました。おじいさんと暮らしていたアルプスの山を離れたハイジは、都会に住む車椅子の少女クララの光のささないお屋敷で精神を病み、そして大好きな山に帰って元気を取り戻します。そして山に遊びに来たクララは、そこでしばらく暮らすうちに歩けるようになる、そんな話でした。

世の中は情報にあふれ、とくに紫外線については悪い話だけが独り歩きしている、そう思うのは私だけでしょうか。(これは紫外線の話だけではなく、どんな情報も本当にそうなのかどうか一度は疑ってみることも必要なのではないか、と思っています。)

太古の昔から私たちを見守り、数々の恵みを与え続けてきてくれた太陽、必要以上に警戒することなく、その恩恵を享受したいものです。



◆ジャカルタ

ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室
高橋 良誌  

◇微量元素のはなし

生物の身体は、いろいろな元素によってできています。また、身体の中でいろいろな機能が働くことについても、それらの化学反応が大きな役割をはたしています。
身体の中にある元素で多いものは、構成成分である水、タンパク質、骨などをつくっている酸素、水素、炭素、窒素、カルシウム、リンなどです。その次に多いものは、イオウ、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、塩素など、構成成分にも含まれ、また体液のなかでイオンとして機能しているものです。それらの元素と比べると、ごくごく少量なのですが、身体にとってなくてはならない元素が存在します。鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレンなどがこれにあたりますが、これらを「微量元素」と呼んでいます。

さて、この微量元素が身体の中でどんなことをしているか、代表的なところをあげてみましょう。

まずは、です。鉄は、赤血球の中にあるヘモグロビンの構成成分です。鉄が少ないと、ヘモグロビンが減少していわゆる「貧血」の状態となります。ヘモグロビンは酸素を身体の各組織に運ぶ役割を担っていますので、これが減少すると組織の酸素欠乏が起こりやすくなります。鉄はさらに、筋肉の中のミオグロビンというタンパク質の構成成分にもなっています。鉄は、筋肉の中でも酸素をうまく運び、細胞の中ではミトコンドリアにある「電子伝達系」という効率よくエネルギーをつくりだす部分でも重要な役割をはたしています。「疲れやすい」という患者さんの中で、鉄が足りないために症状が出ているひともいるようです。また、鉄欠乏と「むずむず脚症候群」との関係も指摘されています。「むずむず脚症候群」とは、何の理由もないのに夜になると、ふくらはぎのあたりがむずむずしてきて眠れない症状をあらわす病気です。この症状の患者さんのなかで、鉄欠乏が原因になっているひともいるのです。なぜ、鉄が少ないとこの症状が出るのかは不明ですが、鉄を補充すると症状が改善するのです。

次は、亜鉛です。亜鉛は、体内の300種類以上の酵素の中心元素です。酵素というのは、いろいろな生化学反応を促進する物質です。ですから、亜鉛がないと必要な化学反応がなかなか起こらなくなり、身体の中の代謝が停滞したり、必要なタンパク質がつくられなくなったりします。亜鉛欠乏で有名なのは、味覚障害です。味覚は、舌の表面や口の内側の粘膜に約10000個ある「味蕾」という小さな器官に、味の物質が接触して生じます。この味蕾をつくっている細胞には亜鉛が高密度に存在しています。味蕾細胞は体の細胞のうちで最も新陳代謝が速く、そのためにタンパク質が盛んに合成されていますが、亜鉛が不足すると「細胞の新旧交代」がスムーズにいかなくなり、其の結果、味に対して鈍感になるわけです。亜鉛は、細胞分裂を盛んにするための酵素としても必要ですし、細胞や組織の構成するタンパク質をつくるのにも必要なのです。やけどなど皮膚の再生が必要な状態になったときに、重要な役目を果たしています。皮膚だけでなく、いろいろなけがから回復するときも、亜鉛が必要と考えられています。

も代表的な微量元素です。銅は、亜鉛と同じように酵素の成分として働くことで、体のなかで血液をつくる、骨や血管を正常に保つ、脳の働きを助けるなどの働きをしています。体に銅が不足すると鉄の利用が妨げられ、ヘモグロビン合成が低下し、貧血が起こります。また骨の成長異常や骨粗鬆症が起こったり、白血球が少なくなったりします。

微量元素は、食物から摂取するしかありません。鉄は日本人の男性の10%、女性の40%が、亜鉛は20-30%が欠乏状態にあるといわれています。女性の鉄欠乏の原因の一つは、月経による血液の喪失によりますが、全体としての微量元素の欠乏の原因は、食生活にあると考えられます。現代は、精製した食品(白米、食塩、白砂糖、精製小麦粉など)が多く、たとえば玄米に含まれるミネラルが白米には含まれていないため、摂取不足に陥りやすい状況にあります。また微量元素の摂取量は、タンパク質の摂取量に相関するといわれています。これは、動物のタンパクの中に微量元素がたくさん含まれているからです。ということは、赤身の肉をある程度食べないと、ミネラル不足に陥ることが推定されます。現代では、肥満、コレステロールなどの問題などから肉食を避ける方がよい、と一般的にはされています。しかし、これも程度問題で、極端な食事のとり方では足りなくなる栄養素も出てくるのです。「バランスよく食べる」ということが重要になります。

よい食事のとり方は、そのときに必要とされる栄養素によってかわってきます。
例えば、母乳で育てるお母さんの栄養も赤ちゃんにとって重要です。鉄欠乏症のお母さんが、完全母乳栄養で赤ちゃんを育てると、母乳の中の鉄分が少ないため、赤ちゃんが鉄欠乏性貧血になってしまいます。この貧血は、離乳食が始まって鉄分の補給がうまくいけば改善してきますので、取り返しがつかないということはないのですが、複数のミネラル不足により、神経をはじめとした発達の遅れにつながることもありえるのです。母乳がいけないということではなく、お母さんが十分な栄養をとれていないのであれば、人工乳との混合栄養も考慮すべきでしょう。赤ちゃんがすごく色白の場合、母乳栄養であれば、お母さんが貧血ではないかどうかチェックしてみて下さい。

また、亜鉛を例にとってみても、成長期の子どもは、タンパク合成を促すために亜鉛が多く必要です。また、妊娠中も胎児の成長のために、普段の1.5ー2倍の亜鉛の摂取が望まれます。また、大きな病気をしたあと、けがをしたあとにからだの回復を促すために、やはり多めの亜鉛が必要です。

スポーツ選手の食事のとり方ですが、トレーニング期間中、けがからの回復期間中は、タンパク質とミネラルを多めにとることが必要です。赤身の肉、高野豆腐、チーズ、牡蠣、煮干しなどに亜鉛が多く含まれています。相応のエネルギーとしての炭水化物も必要です。試合前日などに、縁起をかついで「敵に勝つ」といって、ビフテキとトンカツが定番のようにいわれていましたが、このような肉類は試合前にはよくありません。タンパク質を消化吸収するためには、特別にエネルギーが必要で、試合前に貴重なエネルギーをロスしてしまいます。試合前は、パスタなど吸収のよい炭水化物を中心にして、身体の中にエネルギー源を確保しておきます。

微量元素については、サプリメントとしていろいろなものが売られています。これらを活用するのも一つの方法ではありますが、注意しなければいけないのは、ある元素のとり過ぎは、他の元素の体内での機能を弱めたり、吸収を妨げたりすることがあることです。また、なかなか起こることではありませんが、過剰症(多すぎるために起こる不都合な症状)も存在します。亜鉛や銅、マンガンなどは、体内で活性酸素を消去し、「アンチエージング」効果を持つともいわれています。また、亜鉛はインスリンの生成に必要で、亜鉛欠乏が糖尿病の原因になる可能性も指摘されています。これらは、確かではありますが、それだけが決定因子ではありませんので、一つの栄養素だけで効果が出るとは限りません。サプリメントの宣伝文句には、そのようなことがうたわれていても、その栄養素だけが身体に重要なわけではありませんので、それだけを信じ込まないようにしましょう。何事もバランスが大事なのです。



◆大連

大連市中心医院日本人医療相談室
星野 眞二郎

◇スポーツと薬物使用について       

北京オリンピックが無事に終わりほっとしている矢先にショッキングなニュースが飛び込んできました。陸上男子ハンマー投げで銀メダル、銅メダルを獲得したベラル-シの2選手が競技後のドーピング検査で陽性だったそうです。また、女子陸上7種競技で銀メダルを獲得したウクライナの選手もドーピング違反であることがわかりました。いずれも“筋肉増強効果のある薬剤”を使用した疑いをもたれています。

ドーピングとは“薬物などの不正な手段により、競技成績を上げようとする行為”を指します。また、“薬物を服用していることを隠蔽したり、分かりにくくするための薬物の摂取ならびに方法”も含まれます。一般に知られている禁止薬物として、①興奮剤・覚醒剤(アドレナリン、アンフェタミン等)、②麻薬類(モルヒネ、ヘロイン等)、③筋肉増強剤(蛋白同化ステロイド等)、④β2作動薬(気管支拡張薬:喘息等の治療薬)、⑤利尿薬(高血圧や心不全の治療薬)などが有ります。また、使用制限薬物として、①副腎皮質ホルモン(糖質ステロイド:喘息・リウマチ等の治療薬)、②β遮断薬(高血圧や心不全の治療薬)、③局所麻酔薬(リドカイン、プロカイン等)、④カンナビノイド(ハシシュ・マリファナ等)などが挙げられます。

これ以外に、運動時の持久力を高めるための“血液ドーピング(輸血等)”というものも有ります。
薬物を使って競技成績を上げるドーピングの起源は、ギリシャ時代までさかのぼるそうです。当時は競技者が幻覚作用のある葉(コカ)を噛んだことに始まります。また、競走馬に興奮する飲料を与える行為が“ドープ(dope)”という英語で表現されるようになったのは19世紀末といわれています。その後、1960年オリンピック開催中に選手が、覚醒剤の一種であるアンフェタミンの摂取により死亡する事件が起きました。この薬物を使用すると一時的に緊張感が和らぎ、気分が高揚し、疲労感がなくなり、一時的に運動能力が上がったかのような錯覚に陥ります。しかし、ドーピングは驚異的な運動能力アップを果たす反面、過度の薬物服用により深刻な副作用や後遺症、時によって生命の危険にさらされる場合もあります。ドーピング検査が正式に行われるようになったのは1968年のオリンピックからです。最初のうちは興奮剤や麻薬などが、その後、筋肉増強剤である蛋白同化ステロイドのうち当初は化学合成されたものが使用され、後には生体内に本来存在する天然ホルモンも使用されるようになりました。このようにドーピング技術も絶えず“進化”し、巧妙になってきています。ただし、“生体には生理的に存在しない物質はいかなる方法で投与されても”、また、“生理的に存在する物質は異常な量あるいは方法で投与された場合”、それが競技能力を高めることが目的であればドーピングであると認められます。


年度開催地違反件数
(検査数)
禁止薬物ならびに新規検査項目
1968年メキシコ1(667)麻薬・覚醒剤・興奮剤等、約30種類の習慣性薬物が禁止薬物
1972年ミュンヘン7(2079) 
1976年モントリオール11(786)筋肉増強剤(蛋白同化ステロイド)の検査開始
1980年モスクワ0(645) 
1984年ロサンゼルス12(1507) 
1988年ソウル10(1598)100mのベン・ジョンソンから筋肉増強剤検出
(スタノゾール検出法が確立)
β遮断薬・利尿薬が禁止薬物
1992年バルセロナ5(1848)ペプチドホルモン禁止(成長ホルモン等)
1996年アトランタ2(1923)(ステロイド以外の)蛋白同化剤禁止
2000年シドニー11(2359)血液検査が導入(エリスロポエチン検査)
2004年アテネ26(3667)ロサンゼルスの倍(過去最高)、7つのメダル剥奪(金メダル3個含む)



また、選手の尿を採取して検査する以外に、2000年シドニーオリンピックでは血液検査が導入されました。
ドーピング検査で禁止されている化学物質としては、これ以外に、低身長の治療に使われる成長ホルモン、糖尿病の治療薬であるインスリンなどのホルモンならびに関連物質が挙げられます。
短距離競走、格闘技、重量挙げなど、筋肉の瞬発力と最大筋力を必要とする種目では、興奮剤や蛋白同化作用物質などが使われることがあるようです。

また、最近、よく見かける“携帯式の酸素ボンベ(hyperbaric oxygen chamber、通称ベッカムスプレー)”の使用については、世界アンチ・ドーピング機構(WADA: World Anti-Doping Agency)の規則には“酸素摂取や酸素運搬、酸素供給を人為的に促進することは禁止される”という記載が有りますので、現時点では“使用を控えるべき方法”と考えられています(日本アンチ・ドーピング機構[JADA: Japan Anti-Doping Agency]の見解)。
特に、一般的に使用頻度が高いと考えられる薬物として、市販の総合感冒薬が有りますが、その成分として禁止薬物が含まれている場合が有るので注意が必要です。
以下、一般に使用される頻度の高い薬について、注意すべき事項について述べます。

1.咳止めの成分として使用されることがある麻黄は禁止リストに入っています。従って、麻黄を含む葛根湯は注意が必要です。漢方成分が入っていることが予想出来る一般医薬品もあれば、名前だけではわからないものも有ります。また、β刺激剤と呼ばれる喘息治療に使われる気管支拡張剤も特定の競技では禁止リストに入っています。

2.麻黄が入った漢方薬として、葛根湯、小清竜湯、麻黄湯、麻黄附子細湯、麻杏甘石湯、ヨク苡仁湯(ヨクはクサカンムリに意)、防風通聖散、神秘湯、五虎湯、五積散などが有ります。漢方薬は数多くの生薬が成分として含まれていること、全ての成分が記載されていない可能性もあるので注意が必要です。

3.2004年より、咳止めのカフェインやエフェドリン、鼻水止めの、フェニルプロパノールアミンなどが禁止リストから外れたため(監視プログラムに変更)、禁止物質を含む総合感冒薬は少なくなりました。しかし、カフェインには心拍数増加、利尿作用などが有り、大量使用は禁止されています(尿中12μg/ml以上、コーヒーや紅茶を通常飲む範囲においては問題にはなりません)。風邪薬の種々の成分の中には、体内で禁止物質に変化する恐れのある成分もあるので注意が必要です。

4.健胃・総合胃腸薬、海外の強壮ドリンクの中には禁止物質であるストリキニーネという植物アルカロイドが配合されているものが有ります(最近は少なくなっています)。

5.ダイアモックスは緑内障の治療、あるいは高山病の予防などに使われる薬ですが、禁止物質の服用を隠蔽するという理由で、利尿薬同様に禁止されています。

6.男性型脱毛症治療薬が2005年12月に発売され話題になりましたが、この薬の成分であるフィナステリドはα-還元酵素阻害薬の一種であり、禁止薬物となっています(育毛剤・養毛剤の中には男性ホルモンであるテストステロンを含むものがあり注意が必要です)。

また、いわゆる健康食品・サプリメント・健康ドリンクの中には、禁止物質が含まれている可能性があるので注意が必要です。一般に“滋養強壮”の効能をうたうものの中には、禁止物質である男性ホルモン(テストステロン)が含まれているものが有ります。特に海外から輸入されているものは、どのような成分が入っているか明らかでない場合が多いので注意が必要です。その健康食品が禁止物質を含むかどうかは、世界アンチドーピング機構(WADA)が認定するドーピング検査機関に分析を依頼するしか方法はありません。WADAは“抜き打ち検査”の徹底と、より多くの選手たちを検査対象にすることを標榜しています。しかし、この検査には一人一回200ドル以上の費用がかかるといわれています。

一方、“自身の治療用”ということであれば、ドーピング陽性になる医薬品であっても、申請することにより、治療上必要な医薬品を使用することが出来ます(TUE: Terapeutic Use Exemption)。代表的な薬剤として糖尿病の治療で使われるインスリン、気管支喘息の治療約であるβ2刺激剤、各種アレルギー疾患・関節リウマチなどで使われる糖質ステロイドなどがあります。また、利尿剤は多くの禁止薬物を体外に流し出し、ドーピングを隠蔽する役目を担う以外に、体重別階級のあるスポーツの減量目的で使用されていました(現在は禁止薬物に入っています)。

また、腎性貧血の治療に用いられるエリスロポエチン(EPO)は血液中の赤血球(ヘモグロビン)を増やす作用を持ちます。血液中の赤血球が増加すると、酸素の運搬能力は飛躍的に上昇しますので、持久力を必要とする長距離走、自転車競技、ノルディック競技などで効果を発揮します。しかしEPOはもともと体内にある物質なので外部から注入されたかどうかを見つける方法は有りません。そのため、ドーピング検査は血液中のヘモグロビン値の高低で判断します。

入国前にEPOを処方した自分の血液を採取・保存しておき、本番直前にその血液を輸血する“血液ドーピング”という方法も知られています。

2004年からは“遺伝子ドーピング”も禁止事項に盛り込まれました。“遺伝子ドーピング”とは筋肉を増やす遺伝子、赤血球を増やす遺伝子など肉体能力を向上させる遺伝子そのものを人体に組み込むというものです。これは薬物を使用するわけではなく、DNAを組み込むやり方なので発見が非常に難しいといわれています。
ドーピング検査の項目は基本的に各スポーツ団体に委ねられています。国際サッカー連盟は109種類を禁止していますが、それでも国際オリンピック委員会(IOC)基準の半分以下でしかありません。バスケットリーグのNBAは麻薬や興奮剤を中心とした9種類、サッカーリーグのNFLは筋肉増強剤や成長ホルモン類の検査にとどまっています。しかし、未だにドーピング検査を実施していないスポーツ団体もあります。

先日、日本相撲協会は、元幕内力士の若ノ鵬が大麻を含んだタバコを隠し持っていたとして逮捕され、相撲協会が行った抜き打ちの尿検査で露鵬と白露山から大麻の陽性反応が出ました。相撲協会では、来年以降、本格的にドーピング検査を導入して、薬物の不正使用に対する抑止力とすることが決まったそうです。

また、“正当な理由無くドーピング検査を拒否した者はドーピング違反をした者と同じ処分を下す”こと、“採取した検体(尿)は何年間か保存し、新しい検査方法でドーピング陽性であれば、過去に遡って処分を行う”ことなどがIOC規定に盛り込まれたそうです。

オリンピック自体が巨大ビジネスと化している現状であっても、スポーツ本来のフェアープレーの精神に立ち返り、あるいは選手の健康への多大な影響も考えた場合、ドーピングを許してはいけないと思います。この点を関係者各位に啓蒙するとともに、適切な情報を提供するアンチドーピング活動を今後も継続する必要が有ると思われます

(以上)