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ニュースレター(機関紙)

JOMF派遣医師便り
NL08080101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国、医療事情

◆シンガポール

シンガポール日本人会クリニック
日暮 浩実

◇広まるチクングンヤ熱

感染があった地域も15か所を数えます。チクングンヤ熱の国内発生の第1例は今年の1月でした。リトルインディアという地域で10数名の集団発生が確認されました。チクングンヤ熱はデング熱と同じ蚊(Aedes mosquito)などにより媒介されるため、シンガポール厚生省(Ministry of Health),環境庁(National Environmental Agency)がその地域の住民の血液検査、蚊の発生源の駆除などを行いました。

しかし、6月のニュースレターでもご報告させていただいたとおり、その後も集団発生があり、現時点(8月19日)で、年初来からの累積の国内発生例は63名となりました。ちなみに輸入例は57名で、国内の確認例は128名となっています。昨年までは輸入例がわずかに見られる程度でしたので明らかに異常な変化です。感染があった地域も15か所を数えます。

シンガポールの北、幅わずか1キロメートルの海峡を隔てたところにあるマレーシア領のジョホールバルではほぼ毎日、新規の患者さんが確認されています。この町とシンガポールは橋でつながっていているため往来が盛んで、毎日数万人のマレーシア人がシンガポールに仕事にやってきます。このため、厚生省は蚊そのものがこの海峡を渡ったのではなく、人がこの病気をシンガポールに持ち込んだのだと推測しています。

デング熱は、蚊の駆除をしているにも関わらず、ここ数年の年間発生例が数千から一万例以上に及んでいます。西暦2000年の発生例はわずか500人だったことを考えますと、感染の広まりを抑えるのは容易ではないことがわかります。

チクングンヤ熱がこの地に定着しないよう関係各機関が最大限の努力を払っているとしていますが、感染を広げないためには、患者さんの協力が必要です。体調がおかしいと思ったら医療機関を受診するようお願いいたします。



◆マニラ

マニラ日本人会診療所
小栗 千枝

◇フィリピンの社会保険制度について

今回は、フィリピンの社会保険制度についてです。日本と違い国民皆保険のようなものはなく、国民のほとんどが貧困層であるこの国では、国民が医療的に保護されてはいません。
興味のある方は、ご一読ください。

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社会保険制度
フィリピンの社会保険制度には、公務員を対象にしたGSISと、一般国民を対象にしたSSSがあり、このうち、SSSは、SS、MCR、ECの3基金からなる。

1. GSIS(Government Service Insurance System: 公務員保険基金):公務員を対象
2. SSS(Social Security System: 社会保障基金):一般国民を対象
1) 社会保険基金(Social Security Program: SS):
傷病手当、障害年金、遺族年金、退職年金、出産休暇手当などの支給
2) 医療保険基金(Medicare Program: MCR):
労働者及びその家族に対する医療費の給付
3) 労災補償基金(Employees' Compensation Program: EC):
業務上疾病に関する医療費、労働災害に伴う傷病手当、障害年金、遺族年金などの支給

GSISもSSSも、それ以外に、生活資金、教育資金、住宅取得資金、株式投資資金の貸し付けも行っている。

約2,400万人(国民の3分の1)が、GSISもしくはSSSに加入している。


SSSの強制及び任意加入者
強制加入者:
・使用者
・60才以下のすべての労働者
・月収1,000ペソ(約2,500円)以上の使用人(メイド、コック、ドライバー、庭師、子守り、門衛など)
・自営農・漁民
・月収1,000ペソ(約2,500円)以上の自営業者(俳優、プロ・スポーツ選手、専門職など)

任意加入者:
・月収2,750ペソ(約6,900円)以上の海外建設労働者
・退職者
・SSS加入者の配偶者
・外国政府機関(在フィリピン大使館など)に勤務する労働者
など

※ ちなみに、フィリピン国民の月収は、建設業者で10,000ペソ(約25,000円)、メイドで3,175~5,290ペソ(約8,000~13,000円)、2006年のフィリピン人家庭の一ヶ月の平均収入は14,300ペソ(約35,800円)である。

財源
SSSの費用は、労働者と使用者からの保険料からまかなわれ、GSISは、中央政府及び各地方自治体が使用者として応分の負担をしている。
保険料は、労働者の標準報酬月額(残業手当、通勤手当、扶養手当、食費補助も含む)によって決められている。

社会保険基金(SS):
標準報酬月額の8.4%(そのうち労働者3.36%負担)
ただし標準報酬月額12,000ペソ(約30,000円)以上は、定額1,008ペソ(労働者403ペソ(約1,000円))

医療保険基金(MCR):
標準報酬月額の2.5%(そのうち労働者1.25%負担)
ただし標準報酬月額3,000ペソ(約7,500円)以上は、定額75ペソ(労働者37.5ペソ(約94円))

労災補償基金(EC):
標準報酬月額の平均1%(全額使用者負担)
ただし標準報酬月額1,000ペソ(約2,500円)以上は、定額10ペソ(約25円)

フィリピンは、全国民の49%が21歳未満の未成年であり、また、医療保険基金により支給される医療費について、疾病毎の定額制を採用していることから、現時点では保険財源には大いに余裕がある。


医療保険基金(MCR)
フィリピン健康保険組合(Phil Health)により運営されている。

加入者本人及びその扶養家族(配偶者、21歳未満の子、60歳以上の両親、21歳以上の障害を持つ子)がフィリピン医療委員会から認定された病院で、入院医療を受けた時に、医療費の給付を行っている。外来治療は給付の対象とならない。

医療費は、傷病の種類と医療施設の規模及びレベルに基づいて定められた一定額が、医師または病院に医療保険基金から直接支払われ、それを超える分については患者の自己負担となる。(※)

対象となる入院期間は、加入者本人については1年に最大45日まで、扶養家族については併せて最大45日までに制限されている。

美容整形、視力矯正、精神疾患、一般健康診断、正常分娩については、給付の対象から除かれている。

労働災害による傷病の場合には、労災補償委員会に認定された病院で、認定された医師が治療する場合について、労災補償基金から医療費が給付される。支給限度額は労災補償委員会が定め、外来治療も給付の対象としている。


※ 実際には、入院費の1~2割が支払われる程度で、患者の自己負担がかなりの部分を占める。

また、外来治療が給付の対象とならないため、高血圧、糖尿病などの慢性疾患は、病院に行く、もしくは薬を購入できる余裕のある人以外は、ほとんど放置の状態である

ちなみに、日本でも処方される薬のほとんどはフィリピンでも手に入る。
日本人の私たちにとっては大した値段ではないと思うかもしれないが、フィリピンの人たちにとっては高額で、継続するのが難しい。
主な薬の価格を以下に、(これはgenericの価格であるが、ブランドのものはこの3~4倍することもある)

降圧剤
Nifedipine 5mg 1日3回 1ヶ月分 800ペソ(約2,000円)
Amlodipine 5mg 1日1回 1ヶ月分 1,400ペソ(約3,500円)
Atenolol 50mg 1日1回 1ヶ月分 300ペソ(約750円)
Furosemide 40mg 1日1回 1ヶ月分 300ペソ(約750円)
抗血小板薬
Aspirin 100mg 1日1回 1ヶ月分 60ペソ(約150円)
血糖降下剤
Glibenclamide 2.5mg 1日1回 1ヶ月分 140ペソ(約350円)
Glimepiride 1mg 1日1回 1ヶ月分 350ペソ(約875円)
高脂血症
Pravastatin 10mg 1日1回 1ヶ月分 1,220ペソ(約3,050円)
Bezafibrate 400mg 1日1回 1ヶ月分 800ペソ(約2,000円)


精神疾患が給付の対象になっていないということは、精神疾患が病気として認識されていないということか・・・?


社会保険基金(SS)
傷病手当、障害年金、遺族年金、退職年金、出産休暇手当などの支給を行なっている。
傷病手当、障害年金、遺族年金については、労災補償基金との重複支給が認められている。

1) 傷病手当
傷病のため就労できず、最低4日間病床にあり、直前12ヶ月間に最低3ヶ月間保険料を支払っており、有給病気休暇を使い切っている場合に、平均標準報酬日額の90%相当額(最高125ペソ(約312円))が支給される。

支給期間は、年間120日を限度とし、同一傷病については240日を限度とする。

労働災害による傷病の場合には、平均標準報酬日額の90%相当額(最高90ペソ(約225円))が傷病手当として労災補償基金から支給される。
支給期間は120日間である。

※ ちなみに、フィリピン首都圏で、家族6人が一日生活するのに必要な最低の費用は、764ペソ(約1,900円)。約3分の1は食費、残りは家賃、交通費、学費などに使われる。

2) 障害年金
保険料を36ヶ月以上支払っている加入者が障害者となった場合に支給される。
支払期間が36ヶ月未満の場合には、年金の代わりに一時金(最低1,000ペソ(約2,500円))が支給される。

年金額は、加入期間と平均報酬月額により決定されるが、最低支給額は月800ペソ(約2,000円)
120ヶ月以上保険料を支払っていた場合は、月1,000ペソ(約2,500円))、
加入期間が20年の場合で、平均標準報酬月額の半額程度。

完全障害者の場合には、月500ペソ(約1,250円)が加算されて支給される。

完全障害者が21歳未満の未婚の子供(月収300ペソ(約750円)未満)を扶養している場合には、被扶養者年金として、5人までを限度とし、1人当り月額年金額の10%(最低月150ペソ(約375円))が支給される。

労災による障害の場合、最長5年間、障害年金月額と同額が、労災補償基金から支給される。

3) 遺族年金
保険料を36ヶ月以上支払っている加入者が死亡した場合に、扶養していた配偶者及び子供に対して、支給される。
支払期間が36ヶ月未満の場合には一時金が支給され、さらに10,000ペソ(約25,000円)の葬祭金が給付される。

年金額の額は、加入期間と平均報酬月額により決定される。
一時金は、受給者が配偶者及び子供の場合、年金月額の35倍、両親、非嫡出子、直系子孫の場合、年金月額の20倍である。

死亡した加入者が21歳未満の未婚の子供(月収300ペソ(約750円)未満)を扶養していた場合に、5人までを限度とし、1人当り月額年金額の10%(最低月10ペソ(約25円))が支給される。

労災による死亡の場合、5年間、遺族年金月額と同額が、労災補償基金から支給される。

4) 退職年金
120ヶ月以上保険料を支払った60歳以上の退職者及び65歳以上の高齢者に対して支給される。

年金額は、加入期間と平均報酬月額により決定されるが、最低支給額は月1000ペソ(約2,500円)
240ヶ月以上保険料を支払っていた場合は、月1,200ペソ(約3,000円)。

退職年金受給者が21歳未満の未婚の子供(月収300ペソ(約750円)未満)を扶養している場合には、被扶養者年金として、5人までを限度とし、1人当り月額年金額の10%(最低月150ペソ(約375円))が支給される。

5) 出産休暇手当
加入者の、出産に伴う休暇中の所得補償として、出産休暇手当が給付される。

出産または流産した直前の3ヶ月間に保険料を納入すべき対象となっていた女性については、第4子までの出産に対して、標準報酬日額に等しい額が出産休暇手当として60日間支給される。
なお、帝王切開による出産の場合には、78日間支給される。
ただし、自営業者、SSSの任意加入者は対象とはならない。

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社会保険が医療費それも入院費のごく一部が支給されるのみであるため、少し余裕のある人は、Private の保険に加入しています。保険料は、病院や入院する際の部屋代によってランク分けされています。(一年間の保険料は、5,089~21,061ペソ(約12,700~52,600円))
保険会社と契約を交わした病院、医師のリストをもらい、その中から自分が受診するところを選択します。
しかし、外来治療については、検査費はカバーされますが、薬代は出ません。

日本の医療システムも多くの問題を抱えていますが、ここフィリピンでも・・・
どこの国においても、病気にならないように普段から注意することが大切なことは言うまでもありませんが、それでも、理想を言えば、本当に必要な時に、(貧富の差を問わず)安心して医療が受けられるようであってほしいものです。



◆ジャカルタ

ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室
高橋 良誌  

◇現代の医療情報をどうみるか


肥満について、最近は医学的立場から「メタボリックシンドローム」という概念が提唱されているように、健康上よくないものと定義されています。それに対して、「少し太めのほうが長生き」などというデータが発表されたりしています。何を食べたら健康にいいか、どんなダイエット法がより効果的か、あるいはこの薬はある病気にかかる危険率を下げるなど、現代はメディアから次から次へと情報が押し寄せてきます。

テレビの「発掘あるある......」という番組で、データのねつ造があったのは記憶に新しい事です。流れてくる情報は真実とは限らないということを、端的に現しています。たとえ間違っていなくても、インパクトを強くしようと誇大に修飾している事も考えられます。
現代に溢れている医療情報を、どのように解釈すればいいのでしょうか。

最新情報
京都大学の研究チームが、皮膚の細胞からどんな細胞にも分化可能な万能細胞をつくったというニュースは、将来の再生医療に大きな期待を持たせるものであり、現在の医療で治療困難な障害に対する光明といえるでしょう。すでに患者さんや家族から「治療に使えるのか」といった問い合わせが、数多く寄せられているとのことです。このような最先端の研究結果は、すぐに実用されるものではありませんので、今治療に使えるものではありません。

このほかにも、多くの研究データが発表され、それが一般のメディアによって報道されることは、最近では珍しくありません。多くの最新の研究結果は、それらをすぐに治療に役立てることができません。また、動物実験レベルでは成功していることが、ヒトへの応用でうまくいかず、実用化していない研究が非常に多くあることも事実です。また、20年前には正しいとされたことが、今では否定されていることがもありえるのです。最新情報は、(近い)将来の医学に大きな発展をもたらすことは期待できますが、今すぐ実用化できるものでなく、また、将来は否定されるかもしれないという可能性をもったものだということを理解しなければなりません。

医療データの性質
医療が扱うデータは、統計で処理されます。ある病気の危険因子を持った人に対して、薬を使った場合と使わなかった場合で、発症する危険率が下がるかどうか検討したとします。薬を使わなかった場合の発症率が10%、使った場合が5%だったとしますと、この薬は病気発症の危険を50%減少させた、という結論となります。この結果が、たまたまの結果だったか、普遍性のある(何回やっても同じようになる)結果だったのかを統計学的に検討します。統計学的に正しい、ということは、「このような傾向にあり、それが100%でないにせよ95%くらい確実」ということをあらわしています。
このような検証の仕方で、「この病気を予防するには、この方法(薬など)を」ということが推奨されていくわけです。

研究結果が正しいかどうかは、その対象が正しく選ばれ、評価されているかが前提となります。動物を使った研究では、実験グループの差をできるだけ少なくするように調整することができますが、ヒトの場合、それがなかなか難しいこともあります。

肥満についての研究で、アメリカで「太めの方が長生き」という結果が発表されました。これについての批判は、「比較グループが不適切である」というものでした。やせた人のグループには喫煙者や慢性の病気を持った人が含まれており、死亡率が高いのは「やせていること」が原因ではない、というのです。この点について、この研究の発表者は認めていますが、それでも「太めの方が長生き」と主張しています。 大勢は「肥満は健康に悪い」ですが、その反対を主張する人たちも根強く存在します。いろいろな思惑もあって、「メタボリックシンドロームの提唱は製薬会社の陰謀」と主張する人たちや、「太めの方が長生きというのは食品会社の手先」などと揶揄する人たちまでいるのです。アメリカでは、10年ごとに「太り気味の方がよい」という考え方が流行するそうです。

研究データと現実の対比
研究結果をみたとき、それが現実問題としてどの程度なのか、イメージすることは難しいものです。
ある病気に対して、薬によって発症する危険率が下がるかどうか検討したとき、薬を使わなかった場合の発症率が10%、使った場合が5%だったとしますと、この薬は病気発症の危険を50%減少させた、という結論となります。50%の減少率はかなり大きいとイメージされますが、この結果は、薬を使わなかったときは100人のうち10人が発症し、使ったときは5人が病気になるというものです。いいかえますと、100人のうち90人は、薬を使わなくても発症せず、5人は薬を使っても発症した、ということです。この薬は、100人のうち5人に影響(病気にならない)を与え、95人には影響を与えないということになってしまいます。

さて、この薬は有効なのでしょうか、それほど有効ではないのでしょうか。統計学的な答えは、この研究に参加した対象の人数によりますが、それが十分にあれば、「有効」ということになります。

患者さんの側に立った場合、この薬を使用する価値があるのでしょうか。100人のうちの5人に当たれば、「価値があった」ということができるでしょうが、95人にはいれば「無駄な薬」ということになります。それでも、未来のことは予測できず、病気になる可能性を極力下げたいと考えれば、「無駄でも価値がある」ものとなるでしょう。また、この薬を使うかどうかは、病気の種類によってもちがってくるでしょう。生命に関わる病気や重大な後遺症がでる病気などでは、発症率が低くても薬を使用する価値があるということができます。

今後の医療に大きな影響を与える研究
私の大先輩のある先生の話ですが、大変印象に残りましたので、紹介します。「後世の医療に大きな影響を与える発見や研究というものは、統計学を使わなくても誰がみても有効だということがわかるものだ」というのです。例えば、X線の発見、CTやMRIの開発、ペニシリンの発見、予防注射の開発などです。京都大学のiPS細胞(万能幹細胞)は、この範疇にはいるもので、実用化されれば医療を大きくかえるものになるでしょう。こういう研究に比べると、統計を使ってようやく差を確認できるような研究は、それほど大きな違いはないのかもしれません。前の項で述べた、100人のうち5人にしか影響を与えない薬というのは、「果たして有効といえるのか」考えてしまいます。

医療情報をどのように解釈していくか
ある統計的データがあるときに、人間の反応は様々なものがあると思います。飲酒、喫煙、肥満などが健康に対してリスクがあるということが、統計的に正しいというデータが示されても、「自分だけは大丈夫」と都合良く思いたいものです。特に、すぐに影響がわからないもので、生活の習慣を変えていくのは難しいものがあるでしょう。また、逆に何でも心配な方に考えてしまい、悲観しすぎてストレスのあまり身体の変調をきたしても問題がありますので、心配しすぎるのも考えものです。このへんは、「バランスよく」ということにつきます。

ジャカルタで出会ったある患者さんは、「タバコをやめてストレスで(胃潰瘍になり)血を吐くより、肺がんになったほうがまし」といって、タバコは絶対やめないそうです。人間の身体のことは、「いつか死ぬ」以外に「絶対」はありませんので、自分のこと、病気のリスクのことなどを知った上で、ある程度自分のことは自分で決める「自己決定」が大事になってくるものと考えます。医療者はその手助けをしているにすぎません。



◆大連

大連市中心医院日本人医療相談室
星野 眞二郎

◇北京オリンピックサッカー試合に同行して

第29回オリンピック競技大会が8月8日から24日までの17日間(サッカーの予選は8月6日から開始)にわたって開催され、北京を中心に青島、香港、天津、上海、瀋陽、秦皇島においても競技が始まりました。9月6日から17日まではパラリンピックも開催される予定です。
8月13日、当地の日本人会である大連商工会が企画した男子サッカー試合観戦ツアー(日本・オランダ戦、瀋陽)に医師として同行させて頂く機会がございましたので御報告させて頂きます。

先日、上海市公安当局が、“オリンピック期間中に上海市内で開催されるサッカー競技会場を襲撃する計画を立てていたテロ集団を摘発した”との報道がありました。オリンピックのような大きな国際的イベントは、一般にテロリストによる格好の宣伝の機会であるといわれています。従いまして今回の観戦ツアーにおいても不測の事態が発生する可能性も想定しなければなりませんでした。オリンピック期間中は中国当局も警備対策を強化しており、特に、各競技施設、空港、鉄道及び幹線道路を含む主要ポイントでは手荷物検査を含む厳重な警備体制が敷かれています。例えば、北京の地下鉄全93駅においては、セキュリティチェック(乗客の手荷物検査等)が実施されています。一般にテロ攻撃の対象になりやすいと考えられている場所として、
① 不特定多数の人が集まる場所、例えば地下鉄・バス等の公共交通機関、繁華街・大規模ショッピングセンターなど
② 国の象徴的な施設、歴史的建造物、軍・警察等政府関連施設など
③ 重要インフラ、例えば原子力発電所、幹線道路など
④ 外国人が多く集まる飲食店・バーなどの娯楽施設が挙げられます。

今回の北京オリンピック観戦ツアーは瀋陽で開催されたため、大型バス3台で大連と瀋陽を往復しました(参加人数130名前後)。ほとんどの方は宿泊されなかったため、基本的には“日帰りツアー”ということになります。通常、高速道路を使用すれば、片道所要時間は4~5時間程度だそうですが、我々のバス3台の前後を公安のパトカーに護衛されながらの往復だったこと、途中で3回ほど休憩時間が設けられていたこともあり、往復には片道6時間前後を要しました。反日感情が強いと言われている地域で、日本人が集団行動する場合に、これほどの緊張感に包まれるとは思いもしませんでした。今回のツアーは、朝8時頃に大連を出発して、午後2時過ぎに瀋陽到着、午後5時から7時まで試合を観戦、午後8時頃に瀋陽を出発して夜中2時頃に大連に到着するというスケジュールでした。   

オリンピック期間中は外国人の出入国管理も厳しくなっており、外国人が(ホテルではなく)友人宅や会社社宅などに宿泊する場合でも、管轄する派出所に到着後24時間以内(農村では72時間以内)に届けなければならない規定が厳格に運用されています(以前より、このような規定は存在したようですが、あくまで形式上の規定であり、実際にはあまり遵守されていなかっただけのようです)。外国人が宿泊することを認められたホテルに宿泊する場合は、ホテルチェックインの際に記入された事項がホテルから公安当局に提出されます(これに関しては、ある程度の星数以上のホテルでは現在でも行われています)。

また、“16歳以上の外国人は、警察官にパスポートの提示を求められた場合には応じなければならない”という規定もありますので、少なくともオリンピック開催期間中は常時パスポートを携行する必要があると思われます。往復の高速道路インター通過時にパスポートの提示を求められるかもしれないという事前情報が有りましたが、実際にはすんなりと通過出来ました(公安のパトカーが同行していたお陰かもしれません)。

なお、北京などの都市部においては、空港、駅、埠頭、歩道(歩道橋、地下道)、都市の緑地等の公共の場所での野宿は禁止されていますので、都市部においてはホームレスなどのいわゆる路上生活者を街角で見かけることはオリンピック開催前より、めっきり少なくなったそうです。

今回、往復バス内、あるいは競技会場にてケガ人や病気の方が出た場合を想定して同行させて頂いたのですが、想定した事態として、
① 観戦中の熱中症(気温が40℃近くまで上昇するという事前情報が有りました)
② 車酔い(片道所要時間が約6時間なので想定すべき)
③ 発熱、腹痛・嘔吐・下痢などの急病
④ 持病の悪化(特に心臓病の持病がある方の観戦中の狭心症発作を想定)
⑤ 観戦中あるいは移動時に外傷等
などが発生した場合に対応出来るよう準備をしました。また、脳梗塞・心筋梗塞などの急を要するケースを想定して地元の病院も事前に調査を行いました。

事前に準備した医療機器・医薬品としては-
聴診器、体温計、血圧計、携帯式酸素濃度モニター、携帯式心電図計、必要医薬品(車酔い、かぜ薬、胃腸薬、解熱・消炎・鎮痛薬 [スプレー式消炎鎮痛剤、小児用座薬含む]、ニトロ製剤 [狭心症発作用]、外傷処置用消毒セット [容量100cc以下の消毒液含む]、ガーゼ・包帯・カットバンなどです。

しかし、オリンピックの各競技会場への携行物品の持込みは厳しく制限されていました。
“オリンピック観戦規則”によると、会場内への持込禁止品については以下のような記載があります。
○ 缶、ペットボトル入りの飲料・食品
○ ライター、マッチなどの点火器具
○ 刃物、長い柄の傘、カメラ・ビデオ三脚など先の尖ったもの
○ 太鼓、ラッパ、ホイッスルなどの鳴り物
○ 五輪非参加国・地域の旗、長さ2mまたは幅が1mを超える旗
○ すべての横断幕、スローガン、ビラ等の宣伝
○ 席に収まりきらない大きさの手荷物
○ 無許可の専門的な撮影機器
○ 盲導犬を除く動物
○ ベビーカーと車椅子以外の歩行補助器具
○ 無許可のトランシーバー、拡声器、ラジオなどの無線機器

また、観戦マナー、特に服装について-
○ 観戦中に「ガンバレ、ニッポン!」等の横断幕を使用して応援すること
○ 集団で同じデザインや特定の企業名が入った服や帽子を着用して応援すること
(万一のトラブルに備えて観戦時には着替え等を準備して下さい)
○ 集団で大声を出して野次ったり、騒いだりする挑発的な行為は行わないで下さい
○ 「バカ」や「バカヤロウ」は中国のテレビや映画で、日本兵が中国人に対して口にする言葉であり、中国人は誰でも知っているので口にしないで下さい

持込み禁止品として記載されているものが、なぜ持ち込み禁止なのかについての記載はありませんが、
① 興奮した観客が競技会場に投げ込むと危険なもの
② 爆発物・引火性の高いものなど-所持すること自体が危険なもの
③ 喧嘩・暴動発生時に凶器として使用される可能性の有るもの
などが禁止されているようです。

横断幕については、あまり大きくなく、凶器として使用される可能性の低いもの、政治・思想的スローガン等が書かれていないもの、相手国を非難する内容でないものなどは持ち込んでも構わないという印象を受けました。実際に、“瀋陽にようこそ!(中国語)”、“日本ガンバレ(日本語)”と書かれた小旗(柄はストロー製あるいは割り箸)や横断幕(長さ2mまたは幅が1mを超えないもの)、個人使用のデジタルカメラ(一眼レフタイプの製品でも巨大な望遠レンズ等が付いていないもの)は持ち込んでいる方も多く見られました。

個人で使用する電子機器の一部については、会場内に持ち込むことは制限されているようで、会場外の手荷物預かり所に預けるように指示されるようです。個人で使用する携帯式ラジオについても原則持ち込み禁止のようですが、実際に没収されるかどうかまでは確認出来ませんでした。
  
また事前に準備した医療機器(聴診器、体温計、血圧計、携帯式酸素濃度モニター、携帯式心電図計)は万が一没収された場合に損失が大きいため、その場の判断で、バス内に置いていくことにしました。医療用品(内服薬や消毒処置用薬品)については、会場手前の手荷物検査時に“会場内には持ち込み不可、会場外の手荷物預かり所に預けるよう指示”されましたが、“当地での医師免許証に相当する身分証明書(外国医師短期行医許可証)を提示し、自分が医師であること”、“この薬はケガ人や病人発生時に必要である”旨を伝えたところ持ち込み可となりました。しかし、(最終的には持込可となりましたが-)スプレー式の消炎鎮痛薬、ボトルに入った消毒液は当初難色を示されました。

また、“集団で同じデザインや特定の企業名が入った服や帽子を着用して応援すること”は“オリンピック観戦規則”では禁止されているようですが、実際には日本チームを応援する青いTシャツ・ユニホーム・タオル、オランダチームを応援するオレンジのTシャツや帽子などは持ち込んでも(着用していても)大丈夫なようでした。
日本からの応援ツアーと見られる日本チームのサポーター軍団(20~30名前後)は皆同じユニホームを着ていましたが、入場前に着替えさせられるということはないようでした。

往復ならびに試合中の物々しい警戒態勢の中で、何か想定外の出来事が起きないかどうか、正直心配でたまりませんでした。特に、試合中ほとんどの観客はオランダを応援している雰囲気でしたので、“熱烈なファン同士で喧嘩が起きたり、判定をめぐって暴動等が起きないかどうか”心配でした(試合が大連で開催されていたなら、もう少し日本を応援する観客が多かったのかもしれません)。
しかし心配していたことは幸いなことにすべて杞憂に終わり、何事もなく大連にたどりつくことが出来ました。             

(以上)