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ニュースレター(機関紙)

JOMF派遣医師便り
NL06020101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国、医療事情

◆シンガポール

シンガポール日本人会診療所
日暮 浩実

◇2005年のデング熱と空気感染症小報告


昨年は東南アジア全域でデング熱の流行がありました。シンガポールでは一昨年の2004年の夏ごろから大きな流行が始まり、2005年の9月には一週間で700人を越える患者さんを出した後、11月になり漸く、流行は終息を迎えました。
年間の患者数は14210人となり、それまで最多であった2004年の9459人を大きく上回り、1990年の統計開始以来、最多となりました。そのうちデング出血熱の患者数は2.8%にあたる393人でした。
死者は19人となりました。
徹底的な感染源の除去、駆虫剤の噴霧や、知識の普及などが効を奏したのか今は平年並みの発生数となっていますが、今後の推移は注意する必要があります。

また、昨年は手足口病が2002年以来の大きな流行となり、年間の患者数は15247人となりました。
これは平年の約3倍にあたります。
2月から4月と8月から10月にかけての2回の流行のピークがありました。
多い週では一週間に500人を越える患者さんがでました。

他には水疱瘡は24207人で平年の2万人よりやや増加しています。
おたふくかぜは1003人で平年並み、風疹は140人で平年並みでした。
はしかは33人で平年の半数でした。
日本と比べたときの発生率は水疱瘡は2.4倍と多いですが、おたふくかぜは1/3から1/6、風疹は1/7、はしかは1/10以下という低さです。

シンガポールではMMR(おたふくかぜ、はしか、風疹の3種混合の予防接種)が実施されており、接種率は毎年95%となっています。
日本では無菌性髄膜炎の発生によりMMRは中止されて、それぞれ単独で接種されていますが、接種率はシンガポールよりかなり低いのが現状です。(日本では本年4月以降からMRという2種混合ワクチンの接種開始予定)

インフルエンザに関しては特に報告の義務がないため、正確な数はわかりませんが、十万人単位の患者発生数があったものと推定されています。
鳥インフルエンザの患者さんはシンガポール国内においては一例の報告もなく、鳥類の異常集団死も報告されていません。
世界的には徐々に広がりを見せており、今後とも注意が必要です。


◆マニラ

マニラ日本人会診療所
宮本 悦子

◇フィリピンでの輸血

WHO(世界保健機関)は99年の報告で、世界中で輸血の際に使われている血液の約20%がノーチェックでの使用と指摘しています。
また国際救急医学会などでは、健康な人であれば、血液の約半分(1500cc~1800cc)までの失血なら、輸血だけではなく点滴だけで安全に治療できるとしています。

フィリピンでは政府管轄の赤十字社が緊急時の輸血血液供給の責任を負っているとされています。
売血を排除することを目標とした法律が1994年に成立し、献血をベースとした血液事業がすすめられているということですが、いまだ完備されているとはいえず、現状では赤十字社の血液バンクも供給量は不足しており、各拠点病院では赤十字バンクの血液を使用するよりも各病院が独自で輸血用血液を準備するという方法をとっています。

フィリピンの邦人がよく遭遇するケースはデング熱に罹患した際に血小板製剤をすすめられる場合や出血性胃潰瘍などで内視鏡検査をする前にまず輸血をすすめられる場合などです。
ケースにより異なりますが、日本の病院ではおそらく輸液(点滴)のみで様子をみるよう判断されると予想される場合でも比国の病院では早期に輸血をすすめられる傾向があるようです。

供給血の検査項目や血液管理の仕方も各病院で異なりますが、1回の献血量は標準450ccで、大抵はB型肝炎(日本では抗原と抗体検査をしていますが、フィリピンでは抗原検査のみです)・C型肝炎・HIV-1,2(エイズウイルス)・梅毒・マラリア検査は行っているとのことですが、日本でおこなわれているヒトパルボウイルスB19、HTLV-1(ヒトTリンパ球向性ウイルス)などは行われていないようです。

血液のすべての成分を献血する全血献血が主流で、採血後に各成分(赤血球製剤、血しょう製剤、血小板製剤など)に分離し、用途により使い分けています。
日本では普及している血液中の血小板や血しょう製剤だけを献血する成分献血用の装置を置いている病院は少なく、デング熱などの血小板製剤の献血を家族が強く望んだ時などの使用に限定されています。
白血球除去や放射線照射等は通常行われていません。

このような状況の中、少なくともフィリピンの主要な総合病院では売血やノーチェックの血液を輸血するようなことはないと確認はできているものの、血液製剤の供給システムが完備されているとは言い難く、できればフィリピンでの輸血は避けたいものです。

しかし大量出血や交通事故による出血など生命に危険のある状況では輸血が救命につながる場合もあります。
その際には同僚や家族、邦人からの供血を待っている時間がなく、多くは救命救急医の判断で病院にストックしてある血液製剤から輸血されます(そのような状況下であっても輸血を希望されない場合は輸血拒否の文章の入った英文書類(カード)を所持する必要があります)。

緊急時に日本人からの供血を強く望む場合、病院で問診、血液採取、ウイスルチェックなどのスクリーニング検査を終えるまでに時間がかかるうえ(検査のみで最短4~5時間)、チェックが不十分のまま輸血される可能性もゼロではなく、むしろ病院にストックしてある血液製剤のほうが安全面で優れている場合もあり、一刻を争う状況であれば病院の血液を使用する選択肢もあるということは念頭にあってもいいかもしれません。

病院ストックの血液を輸血した場合は後日、同僚や家族等の協力を得て献血をしてもらい病院に返品するというシステムになっています。
また病院の輸血製剤が不足している場合は緊急で献血者を募集したり、赤十字社の血液バンクより血液を購入する場合もありますが、フィリピンの赤十字社にストックしてある血液の信頼度は未だあまり高くないようで、各病院ではなるべく独自のシステム化された血液バンクを運営する方向にあるようです。

このように、フィリピンでは決して安心して輸血が受けられる状況とは言い難いのですが、幸いここ十数年知るかぎりでは邦人の輸血による重大な感染例の報告はないということでした。

万が一自分が比国で輸血をうけるような状況に陥ったことを想定した時にどのような方法で受け入れるのか自分の意思を家族や同僚に確認しておくことも必要かもしれません。
 

◆ジャカルタ

ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室
菊地 宏久  

◇鳥インフルエンザ(新型)パンデミックは熱帯地方からは起こらないのですか?

一般にインフルエンザは北半球では日本の冬に相当する時期、南半球では日本の夏に相当する時期に流行しています。その原因のひとつとして、冬の低温と乾燥がウイルスにとって増殖するのに都合が良い条件だから、と考えられています。

それではインドネシアなどの熱帯地方ではインフルエンザは発症しにくいのでしょうか。
インドネシア国内で鳥からヒトへの「鳥インフルエンザ」感染確認例は19例(内死亡14名、2005年7月~2006年1月23日)とされています。

現時点では ヒト―>ヒト 感染例はまだ確認されていませんが、今後新型インフルエンザのパンデミックが熱帯地方・インドネシアから起こる可能性は低いのでしょうか。
地球上の熱帯地域や日本の冬以外の季節でも散発的なインフルエンザの患者報告が見られています。この季節外れのインフルエンザ発症は何を意味するのでしょうか。

このような疑問には以下のようなことがヒントになるでしょう。

2005年の「夏」に日本の南国沖縄県でインフルエンザ流行が起こりました。これまでの常識では考えにくい時期の流行でした。
インフルエンザウイルスは日々その抗原性を変化させ我々の免疫力を逸脱した新しいウイルスへと変異していく能力を持っています。

インドネシアのように赤道直下に位置し、北半球と南半球からの流通やヒトの流れに常時挟まれ、鳥を放し飼いにしている国にとって、そのリスクの高さを考えることはとても困難なことです。

2005年の沖縄県の「夏」のインフルエンザ流行を“例外“と考えるのではなく「インフルエンザの流行は冬だけのものではない」、「高温、多湿の地域でもインフルエンザは発症する」という認識を持つべきだと思います。

インドネシアに住む我々にとっては、インフルエンザのクラスター的発生(一部小規模ながらも集団発生)を見たら「新型インフルエンザ」の発生の可能性を常に考える必要があります。

インフルエンザのパンデミック予防には地球規模対策、各国の行政に委ねなければならないことも多いと思います。しかし我々個人レベルでも何をすべきなのかを常に各自が考えていなければ、いざパンデミックに陥ったときに地球上で“パニック”が起こってしまいます。

このまま鳥インフルエンザ(新型)のパンデミックが起こらずに“取り越し苦労”で終息してくれれば良いのですが。


◆大連

大連市中心医院日本人医療相談室
星野 眞二郎

◇中国における精神医療

今回は“中国における精神医療”について述べたいと思います。

他の国々と同様、中国においても、“疾病構造(どういう病気に罹患する者が多いか)”が急速に変化しております。
すなわち、かつて比較的多くみられた感染性疾患(細菌・ウィルス・寄生虫などによる疾患)が減少し、高血圧・高脂血症・糖尿病・肥満などのいわゆる生活習慣病や悪性新生物(癌)の罹患率が高まってきています。

この原因として、1980年代以降の近代化、都市化、技術革新ならびに自由経済の導入などによる“食習慣・生活習慣の欧米化”が挙げられます。

また、“一人っ子政策”により、出生数が低下していること、医療ならびに衛生環境が整備されつつあることなどにより、国民の年齢分布が“高齢化にシフト”していることなども一因と考えられます。
同時に、都市と農村の(あるいは都市内部でも)“経済格差”が著しくなってきていること、競争社会の到来により、社会的にも“精神的ストレス”が増大していることなども相まって、“うつ病”や“神経症”、“心身症”などのいわゆる“精神疾患”の罹患率が高くなってきています。

実際に2001年WHOの世界保健報告のテーマは“精神保健”であり、この頃より、先進諸国だけでなく、いわゆる発展途上国においても精神疾患が増加傾向を示していることが指摘されています。

現在、中国では、“うつ病”(躁うつ病含む)の罹患率は2%前後、“統合失調症”(かつての“精神分裂病”のこと)の罹患率は0.3-0.4%前後と推定されていますので、(人口を12-13億人とすると)全国の患者数は各々、約2600万人、約450万人前後と考えられています。

“情緒障害”や“問題行動”に悩まされている児童ならびに青少年の数は約3000万人、“麻薬中毒患者”は100万人以上いるという報告もあります。

“一人っ子政策”ならびに“核家族化”が子供の発達に及ぼす心理的影響については、中国の専門家だけでなく、世界中の専門家が多大な関心を寄せています。

“出産後うつ病”や“老人性うつ病”が増加していること、“一人っ子政策”以降、“不妊手術を受けた女性の心身症”や“農村女性の自殺(中国では人口の7割以上は農民)”が増加していることも指摘されています。

さらに、中国においては、地震や水害などのいわゆる“自然災害”により、平均すると、毎年2億人前後が、何らかの“心的影響”を受けているといわれています。

これに加えて、中国では“人為的事故(人災)”、“交通事故”、“暴力事件”の被害者も多く、これが原因で、“急性ストレス障害”、“心的外傷後ストレス症候群(PTSD)”、“抑うつ障害”などを起こすことがあります(被災者群の中では、とりわけ“アルコール依存症”の発症率が高いことも知られています)。

しかし、その一方、中国における精神疾患の“治療率”(患者が治療を受ける割合)は、統合失調症が30%前後、うつ病が10%以下、アルコール・薬物依存症が10%以下という結果だったそうです(WHOの委託を受けてハーバード大学が実施した調査結果による)。

“治療率”が低いのは、“精神疾患自体の特徴”(なかなか医療機関を受診しない)にも起因するのですが、これに加えて、“経済的環境の問題”、“精神衛生に対する知識の低さ”、“精神衛生サービスの水準の低さ”なども原因となっているようです。

精神疾患患者を“特別視”する現象は“一般的”であり、“精神疾患は思想の質や道徳倫理の問題である”という認識や、“精神疾患は不治の病であり、身内に罹患者がいることは自己ならびに家人の恥である”といった種々の“誤解”や“偏見”のために治療の機会が失われ、結果として、病状を長引かせたり、悪化させたりする一因となっているようです。

中国では、精神疾患患者は一般の病院よりは、専門の病院(日本でいう精神病院)を受診するのが普通のようです。
実際、不眠症、軽いうつ病、パニック障害などの治療薬に関しても、一般の病院(“精神科”以外のいわゆる“身体科”の病院)での処方薬の選択肢は非常に限られているのが現状です。

それに加えて、中国における精神科専門病院ならびに精神科専門医の数は患者数から考えると極端に少ないことが指摘されています。中国における精神病院の病床数は“万対病床数”(人口1万人に対する病床の数のこと、世界標準は15前後)は1.2であり、人口10万人あたりの精神科医数も平均約1名前後と非常に少ない状況です。
医師以外のコメディカル・スタッフ(臨床心理士、精神衛生カウンセラー、作業療法士、ソーシャルワーカーなど)の人員も絶対的に不足しています。

中国では、多くの精神科専門病院が、依然として辺鄙な郊外地区にあって“交通の便が悪いことが多い”、“設備が不十分である病院が多い”こともあって、“未治療率”とともに“脱治療率”(治療を中断してしまうこと)も高いようです。 

医療制度が整備されていないため(1995年の世界銀行の統計によると中国において医療保険の恩恵を受ける者の割合は20%前後)、精神病院への入院は、“自殺を含めた自傷行為の恐れがある”、“他人に危害を加える可能性がある”など、いわゆる“行動障害”の激しい患者に限られ、入院期間も3ヵ月以内の“短期入院”が多いといわれています。
最近では都市化・核家族化に伴い、精神病床の増加の必要性が叫ばれているようです。

現在、中国では
①衛生部
②公安部
③民政部(行政)
の3部門が別々に精神病院を管轄しており、

①医療を主とする患者
②触法患者
③長期慢性患者
に対応しているのが特徴です。

精神疾患患者が増加していくこと、精神疾患患者の多くは、就業の機会が少なく、家族の支持・経済力も十分でないことが多いことを考えると、“精神疾患・精神衛生に対する一般市民への啓蒙活動を推進する”とともに、
①一般病院ならびに精神科専門病院における当該患者の治療レベルの向上(外来)
②精神科専門病院の環境整備(入院)
③精神疾患の治療費負担に対する“公的な財政援助”の充実
④総合的精神医療サービスを可能にする“精神保健法”の整備
などが、今後の課題であると考えられます。