ニュースレター(機関紙)
JOMF派遣医師便り
NL03070101
シンガポール、フィリピン、インドネシア、中国、医療事情
◆シンガポール シンガポール日本人会診療所 吉田 泰司 ◇東南アジアと下痢 ここシンガポールでの楽しみに、食べる事があります。私も地元のスタッフに連れていってもらったり、自分で行って食べる事が多くあります。所謂、ホッカーと呼ばれる場所に行くのですが、安くて美味しいものを食べさせてくれる所が沢山あります。そこで気になる事が少しありましたので書いてみます。 ホッカーは、デパートの中に入っているものから道端で営業している所など、様々です。衛生的な面から考えると結構幅があると思われます。 たとえば、火が通っている食べ物であれば心配ないと思いますが、生水や氷はシンガポールに来たばかりの方や、特にお子さま等は避けた方が無難でしょう。またテーブルや椅子も汚染されている可能性がありますから注意して下さい。またお手拭きは無い事が多いので自分で持ち歩きましょう。箸やスプーンを置くときは机に直接置かない様に注意しましょう。 どれだけ気をつけてもお腹の調子を崩す事はあります。ホッカーに行かなくても、高級料理を食べたとしても十分起こりえます。ここは東南アジアなのですから。もし、お腹の調子を崩しても1日くらいなら手持ちの薬で様子を見てもかまいません。しかし以下の様な下痢でしたら医療機関を受診して下さい。 1.下痢便に血液が付着している場合。 2.腹痛が激しい場合 3.発熱が2日以上続く時 4.下痢と嘔吐が1日以上続いてだるい時 5.下痢が2日以上続く時 シンガポールは各国のアジアの食べ物が色々味わえる国です。是非十分に注意しながら満喫して下さい。 ◆マニラ マニラ日本人会診療所 土田 穣 ◇腸チフスワクチン 先月はA+B型混合ワクチンの話をしましたが、今月も当診療所で受けられる標記ワクチンについて若お知らせします。皆様方は、A型肝炎流行地には同時に腸チフスも流行する事は既にご存知でしょう。 先ず腸チフスワクチンには次ぎの3種類あります。 ①:死菌ワクチン 腸チフス菌をフェノール加熱処理したもの。 4週間以上の間隔を空けて2回注射する。接種者の30%前後に強い副作用(発熱、頭痛など)が出現する。 1970年頃まで日本国内でも製造販売されていた。安価なため、発展途上国では今でも使用される。 ②:Viワクチン 腸チフス菌の莢膜に存在するVi多糖体抗原を精製したもの。 1回注射すれば3年間有効。約7%に注射局所の反応(発赤、硬結)がみられる。 ③:経口生ワクチン 腸チフスの弱毒株(Ty21a)を用いた製剤。 48時間毎に3~4回経口すれば、3~5年有効。副作用は少ないが、腹部不快感、嘔気、嘔吐、発疹などが出現する場合がある。 いずれも現在日本では認可されておらず、一部の医療機関でしか現在受けられませんが、当診療所では、月~土の診療時間に予約なしで、いつでも上記に②を受けられます。 ① はありませんが、③は手に入ります。 因みに小生はかって、ジュネーブに本部のある赤十字国際委員会からアフリカ西海岸にある国、ナイジェリアで起きたビアフラ内乱中、戦争避難民のための緊急医療援助に派遣された際、上記①を日本で受けてから出発しました。幸い小生の場合は、副作用はありませんでした。 他方、当時A及びB型肝炎ワクチンは勿論出来ていませんでしたから、先回御知らせした「Twinrix」は、接種できませんでした。 今回当地に着任するにあたり、小生は②のワクチンを在フランス日本国大使館で医務官として勤務していた時、受けてきましたのが未だ有効ですが、そろそろ追加接種をしなくてはなりません。当診療所で接種出来るのでわざわざパリまで行かなくても済みます。 最後に2003年7月3日現在のワクチンの価格を御知らせします。 当診療所では②を1,122ペソ(成人)1,422ペソ(小人)で接種しております。 ③の経口剤は、3カプセル計585ペソで購入可能です。 ◆ジャカルタ ジャカルタ・ジャパンクラブ医療相談室 横内 敬二 ◇腸チフス 今年医療相談室ではまだ発生していませんが、熱帯地方で重要な熱性疾患に腸チフスがあります。 腸チフス菌は経口感染によって小腸粘膜から進入しリンパ節で増え、血流に乗り肝臓、脾臓、骨髄などに到達しさらに増殖を続け、やがて血中に溢れ全身を循環する菌血症になります。 腸チフスはこの潜伏期(10~14日間)後に、突然発熱の症状で発症し、体温は徐々に上昇し1~2週間後にはしばしば40度に達する高熱となります。またこの時期にバラ疹という数ミリの紅班が胸腹部に現れることがよくあります。 消化器症状は一般に軽微で特徴的なものは出現しませんが、時に3~4週後に腸出血や腸穿孔を起こし重篤な状態になることがあり、厳重な経過観察が必要です。 確定診断は腸チフス菌を検出することで、1週目は血液から、2~3週以後は便、尿、胆汁からも分離培養されます。 治療はニューキノロン系などの抗生物質が有効で、最近はきわめて予後良好な疾患となりました。しかし、当地の医者はまだ死亡率の高い疾患との認識があり、発熱患者を見ると細菌検査もせずにすぐ腸チフスと診断し、抗生物質の長期大量投与を行う傾向がありますので注意を要します。腸チフスの診断で治療を受けた日本人は数多くいますが、過剰診断も少なからずあり、ジャカルタが特に高感染地域という印象はありません。 日本では2類感染症(危険性が上から2番目)に分類され、予後は改善されたとはいえ少なくとも1ヶ月以上行政の管理下に置かれる厄介な病気であり予防には十分注意が必要です。 予防としては生の飲食物に気を付けることにつきますが、予防接種も開発されていて利用可能です。効果を疑問視する専門家もいますが重大な副作用の報告はなく、ワクチン接種は是非受けておくことを推奨します。 ◆大連 大連市中心医院日本人医療相談室 横矢 佳明 ◇SARSの総括 今回はSARS騒動を振り返って見たいと思います。 今回の中国政府の対応は私にとって随分と中国を知るいい機会となり、また今後再び流行するかもしれないSARSに対してどのように対応すれば良いかを考えさせられました。 今回の騒動の問題点として大きくまとめると、一つは情報を自分自身で選択し判断しなければならないということです。北京市政府が患者数の公表に関して事実とは違う報道をしたことなどはいい例だと思います。大連市に関しても患者数は結果的に5名ということでしたが、公表された事実に関しての疑問点もありました。よって、政府の公表する事実であるからというだけでなく、情報に関しては出来れば自分自身の目で確かめなければならないと痛切に感じました。 また、中国というのは噂・口コミの類が非常に氾濫しており、当地日本人社会でもそのような噂・口コミに惑わされることが多かったように思います。多くの噂が流れ、そのほとんどが事実ではなく、噂の打消しにかなりの時間を割かなければなりませんでした。今後再流行することがあれば、商工会・地元日本人向け雑誌などを活用し正しい情報を流していかなければならないと感じました。ただ、雑誌の関しては中国で発行していることもあり、正しいと思われる事実を伝えるに当たり表現に困ることもあります。 次に病院の対応ですが、ガウンテクニックなども含めソフト面で問題点が多くこのような大きな流行になってしまったことはある程度は必然であると思われました。5月より中国政府はSARS対策にかなりの力を入れたようですが、清潔操作に関しては長年の習慣などの部分もあり、完全な清潔操作はなかなか望めないとも感じました。 ただ、大きな流行を起こした後の政府の対応に関しては日本などでは出来ないことも素早く対応していました。その一番のいい例が人の移動の制限です。これは日常生活に関してかなりの苦労を強いられましたが感染症の拡散を防ぐという意味では非常に有効だったのではないかと思われました。この移動の制限などは未だに続いています。 今冬に向けて、再流行するかもしれないSARSに対してどのように対応すべきかを上記の事実を踏まえて考えていかなければならないと思っております。 |