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ニュースレター(機関紙)

大連での2年の任期を終えるにあたっての諸アドバイス
NL02040102
中国、

大連市中心医院日本人医療相談室 
渡邊 浩司 

 2年の任期を終え、後任医師に仕事を引き継ぐこととなりました。この間、派遣企業の駐在員健康管理対策にはかなりの差があることに気がつきました。また、国際化と言いながら国家的なビジョンや対策が不足する面もあるようです。大連で邦人の健康管理に携わった経験から、私なりに気がついた点をいくつか述べ、筆を置かせて頂こうと思います。

●予防接種

 予防接種は海外に出る前に済ませておきたいものです。大連に来る方にはA、B型肝炎ワクチンの接種をお勧めしています。B型肝炎のキャリアが10%と言われること、毎年冬季にA型肝炎の流行が見られる地域であることからです。予防接種の情報収集は地域ごとに行わなければなりませんが、そうした情報システムは重要です。また、国内で定期外の予防接種が気軽に受けられない状況は早急に改善すべきです。

 性病に対する知識や認識に欠けるのはボーダーレスの時代にふさわしくありません。尿道炎等で受診される方の多くが「思いもよらぬ」と考えていましたが、誤った予防知識の方がほとんどでした。中国のHIV感染者は2000年時点で60万人。現在の増加率(毎年30%以上)をそのまま当てはめれば2010年のHIV感染者数は約1,000万人になると言われます。買春ツアーまがいのサービスに乗るのは自殺行為と考えなければなりません。こうしたお隣の国の状況にどう対応するか、国家として対策を徹底しなければAIDS禍で国を滅ぼすことになるかもしれません。

●慢性疾患

 中国への経済シフトにともなって人の移動が進めば、絶対数として高年者の派遣も増えていくでしょう。現在でも高血圧、糖尿病等の慢性疾患で通院を要する方を相当数抱えています(受診数の5~10%)。平たく言えば、病気を抱えて海外赴任をされている方の数が意外に多いということです。こうした方々から、薬が足りない、日本で診察や検査を受ける時間が取れないなどの話をよく聞きます。会社健康管理室などのサポートは適切になされているでしょうか?また、電話や手紙、インターネットなどを利用した診察・投薬を可能とする受診システムの検討などが必要ではないでしょうか。私のような立場からは、電子メールによる情報交換など、日本の医師(主治医、専門医)との連携がより容易に行えることを切に望みます。

●休暇・休養

 当地で働く方々の特徴として、仕事内容が広いことが挙げられます。切りつめた人員配置であることが多く、少々のことでは休みません。「風邪がなかなか治らない」と来られる方の大部分は休養不足です。信頼できるスタッフがおらず、全てを独りで抱え込まざるを得ない状況の方がとても多い。現業に加えて接待も多いため、定休などあってないようなものです。特に中国の宴会では強い酒を半ば強要されるため、当地での接待は体を張って行われているのが実情です。

「休暇・休養をきちんと取らせる」ということが海外派遣者の労務管理として重要なポイントです。「病気をしても休めない、応援も来ない」体制では心許ないものです。もともと日本人は健康を犠牲にして仕事をする傾向があります。2人しかいない日本人社員がそろってA型肝炎にかかり、身体が真っ黄色になってフウフウ言いながらも休まず出勤していた例もあり驚かされたものです。

●メンタルヘルス

 メンタルヘルスについては取り沙汰されているものの、充分な認識に到っていないようです。予防と対処についてはよく尋ねられますが、メンタルプロブレムをキャッチする努力あるいはシステムが整っていないために、具体的な対策が取られていないように見受けます。知識の普及が必要です。視点が変わりますが、家族のストレスケアも大切です。海外と言えども「いじめ」の問題があり、これは大人社会の矛盾を反映しているものと思います。家族の結束が乱れは仕事の成果に直結しますから、家族のメンタルヘルスも労務管理として重要です。海外の日本人社会を一地域としてとらえることが必要となりますから、対策を考えるに当たっては企業間の連携が望まれます。

●運動不足

 駐在者の運動不足には困ったものです。当地では車生活となり、日常的に脚を使うことは期待できません。積極的なエクソサイズを奨励すべきです。残念ながら、ホテルのジム等で日本人社員が汗を流している姿はあまり見かけないと言われます。一方、現地の優秀なビジネスマンがニューヨークよろしくジム通いをしているようで、健康に対する意識の違いを思わされる話です。上述したように拘束時間の長い日本人駐在員にはジム通いなどする暇がないと思いがちですが、企業として奨励すれば話は変わるでしょう。定期的な運動は頭の働きも改善させるものです。また、健康管理におろそかな人材は国際ビジネスの世界で通用しないというのが私の見方です。人間そのものを量られるのがこの世界であり、その人のイメージが当然のように仕事の成果に結びつきます。派遣者の健康に金と時間を使うことは企業戦略のポイントと思われます。その人自身の値打ちにつながるのですから本人が意識を変えるべきですが、日本の会社にいるとそんな評価は受けられないようです。週末ゴルフだけでは肉体と心の健康管理に充分役立っているのかどうか、はなはだ疑問に思いながら、「それだけでも価値はあります。」と言い続けているのが現在の実情です。

●海外旅行傷害保険

 健康への備えが安心できないだけに、海外での大病は避けたいものです。しかしながら避けがたい事態もあり、脳出血や心筋梗塞などの入院も実際に起こっています。こうしたときにキャッシュレスサービスのできる海外旅行傷害保険が役に立つことが意外に知られていません。保険費用と実費とのバランス以上に、現金払いをしなくて済むというメリットを考えるべきです。当地では、重症であっても「処置より先に支払いが優先」される社会ですから、その場で現金を持っているかいないかが命の分かれ目になる場合があります。その点、保険に入っていることがわかれば待たされることなく治療が進められるという大きなメリットがあるわけです。通訳や日本への移送など周辺サービスもスムーズに開始されるという利点があります。ただし、死亡保険だけの加入で治療費用は出ない保険を掛けていたなど杜撰な契約を見かけることがありますので、会社として保険内容のチェックを忘れないで下さい。

●危機管理・情報収集

 重病の一例ですが、くも膜下出血で入院した社員について現地でどこまで治療すべきか、移送のタイミングや手段を誰に相談するか、サポーターや家族の現地派遣の要否や手続きはどうするかなどさまざまな問題が生じました。本社と現地事務所が相談しながらその場その場で考えて対処していくのですが、そのために現地の通常業務に多大な影響が出ました。危機管理として担当者の設置、対応のマニュアル化など、こうした事態に対処する備えが不十分ではないかと感じました。一社では事例が少ないことから、海外に強いネットワークを持つ保険会社に協力を求めたり、企業間の情報交換を行うことが対策の検討をするうえで有用と考えられます。

 各地の健康・安全に関わる情報を収集し、まとめるといった地道な作業は今後とも重要性を増していくことと思います。現地に人を送っている企業こそが積極的に取り組むべき問題ではないかと思いますが、それは多数の企業が協力しなければできないことでしょう。幸い、海外邦人医療基金など情報ネットのセンターがありますので、よりよい活用をするのが得策でしょう。海外医療に対する産業医のネットワークも時代の要請があるでしょう。国家的にも旅行医学に代表される海外での邦人医療の分野に力を注がなければ在外生活者の不安は大きく、日本の海外発展の障害になるだけはなく、輸入感染症への対応など国内の健康問題に対処するでしょう。

●おわりに

 なお、大連市中心医院日本人医療相談室は現地政府との協力のもとに邦人医療に携わっていますが、日本人ということで優遇を受けていると感じる場面が多々あります。一方で文化・システムの異なる国では思うようにいかないこともしばしばです。幸い大連における対日感情は他地域に比較して良好であり、この関係が続く限りはさまざまな困難はあっても乗り越えるのに余分な苦労はしなくて済むでしょう。大連に暮らす、あるいは出張や旅行で大連を訪れる日本人のひとつひとつの振る舞いが日本人全体に対する評価となります。日本人社会全体として信頼を受ければ仕事はやりやすく、そうでなければあらゆる場面で無駄足を踏むことになると身に染みて感じることがあるのも事実です。企業は資本投下という経済面に加えて、地域貢献などのイメージ対策を真剣に考えなければならない時代と思いました。

 以上、私としては得難い体験と勉強をさせて頂けた2年間の派遣勤務でしたが、この経験が少しでも皆様へのお役に立つことを願って思いつくままに記しました。御批評いただければ幸いです。